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第6話・サーベルタイガーを持ち帰ってきたら、かなり目立ちました

 リーンの森から二時間ほど馬車に乗りザハクの北門へ到着。

 ツルットさんや傭兵達は魔獣の山を解体場へ持っていくらしく、都市の中に入った時に別れた。

 俺のアインは彼らに軽く手を振った後、荷台に乗りながら南の商業地区にある商業ギルドへ向かう。


「そういえば、なんでツルットさんに魔獣の報酬金を渡したんスか?」

「商売のツテだけじゃ理由としては足りないか?」

「アタシの勘ッスけど別のワケもあるッスよね」

「相変わらずお前は鋭いところがあるな」

「鋭いところが無かったら情報屋としてやっていけないッスよ」

「だろうな」


 やっぱりバレてたか。

 アインの鋭さへ俺は苦笑いを浮かべながら軽く頷く。

 荷台を引く馬の歩く音が耳に届く中、アインはジト目を向けてきた。


「それでツテ以外の狙いはなんスか?」

「……助けた人を見捨てるのが嫌だったんだよ」

「ふふっ、やっぱりダンナは変わってるッスね」

「そこは笑うところじゃないぞ」


 めっちゃ恥ずかしいな。

 今の俺が甘い点なのは理解してるが、自分のできる範囲で人助けをしたい。

 御者席の隣で笑うアインへ突っ込みたいが、彼女は満足そうに頬を吊り上げた。


「そのダンナの優しさのお陰で今のアタシがあるのは複雑ッス」

「そうか……。っと、もう少しで商業ギルドに着きそうだな」

「もう少し無駄話をしたかったんスけどねー」


 ……。

 アインの言い方が少し引っかかるが、今はスルーしたほうが良さそうだな。

 商業ギルドの建物が見えてきたので、俺は気合を入れるように自分の両頬を軽く叩く。


「さてと、あの腹黒受付嬢に一泡吹かせるぞ」

「了解ッス!」


 少なくともあの余裕そうな表情を崩したい。

 荷台に乗っているほぼ無傷のサーベルタイガーにチラッと見た後、俺はニヤリと笑いながら前を向く。


 しっかし、商人の視線が刺さるんだけど?

 近くに商業ギルドがある事で、すれ違う商人達がサーベルタイガーを見て口を大きく開けて驚いていた。

 俺は商人達の驚く顔に満足しながら、商業ギルド前についたので荷台を駐車スペースへ停めていく。


「ノーチラスさん、お待ちしてました」

「なんで受付嬢のリリサさんがココにいるんですか?」

「さっき対応していた商人が帰ったタイミングでお二人が見えたので待ってました」

「だ、ダンナ、リリサさんの目に光がなくて怖いッス」

「そこはスルーしようか」


 おそらく商業ギルド内で何かあったんだな。

 凍えるような圧を発するリリサさんに、俺とアインはビビりながら顔を見合わせる。


「わたしの事よりも早く空き倉庫へサーベルタイガーをぶち込みましょう」

「いやあの、どうやって運ぶんですか?」

「そこはお二人にお願いします!」

「「ですよねー!」」


 ほんとリリサさんは人使いが荒いな……。

 身体強化を使えば二メートルを超えるサーベルタイガーを持ち運べる。

 俺とアインは同じタイミングでため息を吐いた後、死んだ魚の目を浮かべながら身体強化を使いながら荷台の上に乗るサーベルタイガーを持ち上げる。


 身体強化が使えなかったらだいぶキツそうだな。

 荷台を引いていた馬は商業ギルドにいる馬師の方に任せて、俺とアインは大きめのコンビニくらいの広さがある木造の倉庫へサーベルタイガーの死体を入れ込む。


「コチラの準備は終わったので毛皮の確認をしますね」

「あ、はい、よろしくお願いします」


 ほんとリリサさんは仕事が早い。

 手早く出入り口の扉を閉めてリリサさんが、天井に吊るしてる光の魔道具の電源を押した後にサーベルタイガーを観察を始めた。

 俺とアインはリリサさんの邪魔をしないように、壁際へ移動して適当な会話をしていく。


「しっかしサーベルタイガーをほぼ無傷で倒すなんてダンナくらいしか出来ないッスよ」

「そうか?」

「少なくともアタシの知ってる冒険者や傭兵にはいないッス」


 あー、普通に討伐するだけならともかく、ほぼ無傷に倒すのがキツいのか。

 サーベルタイガーの毛皮をしゃがんで確認してるリリサさんの横で、真面目な表情で話すアインに対して俺はゆっくりと頷く。


「そうなると、ほぼ無傷でコイツを倒したのは悪目立ちそうだな」

「いまさら気づいたんスか!?」

「お、おう……」

「相変わらずダンナは肝心な時以外は鈍いッスね」


 前線都市の凄腕冒険者なら、ソロでサーベルタイガーくらいは余裕で倒してたぞ……。

 アインの突っ込みに固まってると、毛皮の状態を確認したリリサさんが立ち上がった。


「コチラの毛皮ですが、特に傷も目立たないので最高品質になります」

「おお! 最高品質だと報酬金にボーナスが追加されるッスよね!」

「ですです! コレであのクソババアをクビにできます!」

「「急に話が飛んだ!?」」


 今回の依頼報酬金は金貨五枚。

 そこにボーナスで金貨一枚が追加されるみたいで、合計の報酬金は金貨六枚。

 美人が台無しになる気持ち悪いリリサさんから目を逸らし、俺は報酬金の合計を考える。

 その時、倉庫の扉が誰かに勢いよくノックされた。


「ココを開けなさい!」

「チッ、早速嗅ぎつけてきましたか」

「この声、依頼主のフィナ部長ッスよね」

「ええ。ノーチラスさん、何かあった時は頼みますよ」

「あ、はい、わかりました」


 俺的には穏便に行きたかったけど仕方ない。

 リリサさんが通信魔導具を使いどこかへ連絡した後、アインが手早く扉の鍵を開ける。

 俺は念の為に腰の魔法書に手を置いてると、倉庫の扉が勢いよく開いた。


「まさかこんなに早くサーベルタイガーが納品されるとはね」

「フィナ部長、今はわたしが彼らの対応してるので待っていただけませんか?」

「あら? 元教育係の私に意見を言うなんて貴女も偉くなったのね」

「……失礼しました」


 フィナ部長は、ほんと上司として嫌なタイプだな。

 護衛の大男達を引き連れて現れたのは、紫髪ロングで厚化粧をしている三十代後半くらいの女性・フィナさん。

 彼女はギルド職員の制服の裾を正しつつ、満面の笑みで俺が倒したサーベルタイガーの方へ視線を向けた。


「それはそうと、納品されたサーベルタイガーはどんな感じかしら?」

「特に大きな傷はなく最高品質になります」

「あ、貴女、今なんと?」

「最高品質のサーベルタイガーの毛皮と申しました」


 正直、帰りたい……。

 アインが涙目で俺のジャケットの裾を掴んで、裏口の方へ引っ張っている。

 微妙な空気が倉庫内を支配する中、不機嫌そうに舌打ちをしたフィナさんがリリサさんを睨みつけた。


「本当に最高品質なの?」

「ええ、わたしが保証します」

「なら、その最高品質を最低品質にしなさい」

「それは流石に流石にむちゃくちゃッスよ!?」


 何を言ってるんだこのクソババァは……。

 商業ギルドに物を納品する時の品質に最高・通常・最低の三種類がルールとして決められている。

 基本的に通常品質が依頼金が据え置きで、最高が増額で最低が減額になる。


「黙りなさい小娘! ココでは部長のワタシがルールなのよ!」

「アイン、ココは耐えてくれ」

「だ、ダンナ……。わ、わかったッス」


 アインには悪いけど確実にトドメがさせるまで耐えて欲しい。

 涙目で俺の裾を握り続けるアインの頭を左手で撫でてると、勝ち誇った笑みを浮かべたフィナさんが胸元で腕を組んだ。


「さてと、件の貴族様にサーベルタイガーを納品するから貴女達は倉庫から出て行きなさい」

「申し訳ないですが不正を前にわたしは出ていけないです!」

「そう……。じゃあ、ワタシに歯向かう貴女には痛い目に遭ってもらうわ」


 やっぱりこうなりますか。

 リリサさんは、震える体を押さえながら助けを求めるようにコチラを見てきた。

 俺は彼女の勇気と無謀さに呆れつつ、敬意を表してアインの頭をから手を話して前へ出る。


「あら、もしかして元Cランク傭兵をしていたワタシの護衛とやる気なの?」

「さあ? ただ世話になってる受付嬢を助けたいだけですよ」

「そう……。ならまずは貴方から潰してあげるわ」


 リリサさん、

 か弱い女性受付嬢を演じてるリリサさんへ内心で突っ込みつつ、不安そうなアインへ軽く頷く。


「部長、コイツらはどうします?」

「三人とも顔はいいから奴隷商人に高く売りつけたいわ」

「では、生け取りですな!」


 相手は五人。

 下品な笑みを浮かべる大男達に、俺はニヤリと笑いながら魔法書を開く。

 魔法書から銀色の魔力が吹き出し、倉庫の中に冷たい冷気が充満していく。


「悪いが負ける気はない」

「そいつは! ちっ、お前ら、相手は魔法士だから気合いを入れていけよ!」

「「「「おう!!」」」」


 ココで引いてくれるとありがたかったんだけど。

 大男達はやる気を出したのか、各々の武器を手に持ちながら戦闘体制を整えていく。

 俺はため息を吐きながら、涙目のリリサさんへ優しく声をかける。


「後は任せてください」

「お願いします!」


 ここまで付き合った分、後で高額報酬をふっかけよう。

 リリサさんへの仕返しを考えながら、俺は襲いかかってくる大男達を氷魔法で迎撃していくのだった。















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