ティナさんの指示で大男達が襲ってきた一分後。
俺は容赦なく氷の鎖を作り、襲ってきた大男はもちろんティナさんも拘束して地面に這いつくばらせた。
「くそっ、この鎖を外しやがれ!」
「いや、外したらアンタらは襲いかかってくるだろ」
「それは……」
悪いが恨むなら指示を出したティナさんにしてくれ。
大男達が拘束を解こうと暴れているが、俺が使った氷の鎖はびくともしない。
俺は相手が完全に動けなくなったのを確認してから、リリサさんがいる後ろへ振り向く。
「コレでいいんですか?」
「ええ、ありがとうございます!」
「……この件は貸しですからね」
「もちろん! 後で十倍にして返してあげますよ」
本当に十倍にして返してくれるのかな?
悪魔のような笑みを浮かべるリリサさんにドン引きしてると、彼女の隣にいるアインがニヤリと笑う。
「それでコイツらは奴隷商へ売るんスか?」
「アインちゃんの案もいいけど、もっとえげつないことをします」
「なっ!? アンタ達、ワタシを誰と思ってるの!!」
「罠依頼を出すわ、不正するわ、挙句に暴力沙汰を起こす犯罪者ですよ」
「アンタ、腕利きの護衛がいるからって調子に乗りすぎじゃない?」
わあぁ、ティナさんの顔が怒りで真っ赤だ。
ティナさんの金切り声に頭が痛くなってると、ある一段が倉庫の中へ入ってきた。
このタイミングで一番ありがたい人物が現れたな。
白髪で青目の初老の男性・クロウ支部長が、て厳格な表情を浮かべながら堂々と倉庫の中に入ってきた。
前に会った時よりも迫力があるな。
クロウ支部長部下の職員を引き連れて入ってきたので、さっきまで暴れていたティナさん達が口を大きく開けて硬直した。
「ただいま戻った」
「クロウ支部長、王都出張からお帰りになられたのですね」
「ああ、
今回は上手くリリサさんに使われたな。
商業ギルド内では既にティナさんをどうにかする方法を考えてて、俺がやったのは処分を重くするためのお手伝い。
最終的な流れを理解すると損した気分にはなるが、リリサさんへのデカい貸しと商業ギルドへの
頭の中で損得の計算をしていると、クロウ支部長が鋭い目をしながら俺の方へ向いた。
「ティナ達を拘束してる氷の魔法は君がやったのか?」
「え、ええ、そうですよ」
「なるほど……。魔法の腕を見るに君は
「あの、申し訳ありません。自分の事よりも今は商業ギルド関係をした方がいいと思いますよ」
「それもそうだな。っと、リリサには悪いが事情を説明してくれ」
「も、もちろんです!」
圧を発するクロウ支部長に詰められなくてよかったよ。
視線を俺から逸らしたクロウ支部長は、リリサさんの状況説明を聞いて目が点になった。
「罠依頼の件は通信で聞いていたが、鑑定の不正を堂々とやるとはな」
「そ、その! ワタシはコイツらに嵌められたのよ!」
「現場から不正の証拠が上がってる中、今は君の弁解を聞く余裕はない!」
前世で働いていた会社にいたクソ上司にも言って欲しいセリフだな。
現場を確認したクロウ支部長の大声に、地面に這いつくばってるティナ部長と大男達の顔が真っ青になった。
俺の隣にいるいるアインは戸惑っているのか、目を左右に泳がせ始めた。
「だ、ダンナ、アタシ達はお邪魔してないッスか?」
「ああ……。あの、お話中に申し訳ないのですが、自分達は帰ってもいいですか?」
「ん? ああ、報酬は後日になるが大丈夫かな?」
「もちろん! では失礼します!」
ここで無駄に話すと後で足を救われるかもしれない。
俺はアインと共にクロウ支部長へ軽く一礼した後、足早に倉庫の出入り口へ向かう。
「自分達は帰るので氷の鎖が外れた犯罪者の拘束をお願いします」
「ああ、コイツらはキッチリと責任を取らせるから安心してくれ」
「は、はい」
ぶっちゃけティナさんの処分よりもツテをお願いします。
ただ今の揉めた状況で取引をするのは空気が読めてないので、勿体無い気持ちはあるが自分の身のためにマイナスを飲み込む。
俺は空中に空かせている魔法書を手に取り、氷の鎖を無効する。
「これでアイツを殺せる!」
「悪いがお前らを自由にさせるつもりはない」
「なっ!? この紐は!」
「オレの部下にも拘束が得意な魔法士がいるんでな」
よし、向こうはなんとかなったな。
ティナさん達が土の紐で拘束されたのを確認した俺は、アインと安心しながら一緒に倉庫から出ていく。
「正直、俺達がいなくても何とかなった気がするんだよな」
「実際にリリサさんの私怨が無ければ大半の商人と同じくアタシも動かなかったッスよ」
「ですよねー」
依頼の報酬は美味しいが、それ以上に面倒だった。
商業ギルドの敷地から出た俺とアインは、互いに顔を見合わせながらため息を吐く。
「ねえダンナ、今日はのんびりしたいッス」
「同じく」
なら、今日はゆっくりするか。
バーの開店は明日の夜だし、準備の大半は終わっている。
俺は今の状況を頭の中で整理した後、疲れた表情を浮かべるアインの頭を撫でる。
「相変わらずダンナは抜け目がないッスね」
「そうか? っと、金は手に入ったし帰りは好きな食べ物でも買っていくか?」
「じゃあアタシは霜降り牛のステーキをお願いするッス!」
「お前、かなりガッツリ食べる気だな!?」
「そりゃ面倒ごとでお腹が空いたッスからね!」
やっぱり働いた後はいいお肉を食べたくなるよな。
夕方前の市場で売ってる美味しそうな食材を見た俺は、目を光らせながら欲しい物を購入していく。
「霜降り牛の塊が銀貨一枚ッスよ!」
「それだけあればステーキ以外にシチューとかにも使えそうだな」
「おおお! このお肉でダンナのシチューが食べられるんスね!」
「おいおい、テンションが上がりすぎたろ」
相変わらずアインは飯のことになると元気になるな。
子供のように目を輝かせるアインは、口元を袖で拭きながら次々と食材を買い込んでいく。
俺はアインの購入スピードに若干引きながら、自分も欲しい食材を買っていく。
「って、あんまり買いすぎるなよ!?」
「もう遅いッス!」
お、遅かったか……。
アインの手元には大量の食材が入ったカゴがあり、俺は目が点になりながら固まってしまう。
こ、この量の食材を調理するのか。
料理自体は大好きだけど疲れた体で大量に作るのはきつい。
めっちゃいい笑顔を浮かべるアインの頭を撫でつつ、俺は食材の小山を見て頭が痛くなる。
「ははっ、今日は贅沢だな」
問題が解決したから宴会だな。
俺はアインが持つ食材を半分持ちながら、彼女と共に自分のお店である
なお、大量に作った料理は大食いのアインが元気よく食べました……。