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第10話・サハクの兵士学校の教官はキャラが濃いです

 サハクの東区にある学校区画にあるサハク第四兵士学校

 基本学校を卒業した十二歳以上の生徒達が進路先として選べる学校で、サハク校には三学年で三千人ほどがいるらしい。

 俺は卒業生であるアインとハバトさん連れられ、兵士学校の敷地内へ入る。


「サハクの兵士学校に来るのは初めてだから緊張するな」

「ははっ、ノーチラスさんでも緊張するのか」

「ハバトは俺の事をどう思ってるんだ?」

「それを聞くのは野暮だろ」


 地味に気になるな。

 ハバトさんの含みのある返しが気になってると、俺の隣を歩くアインが何かに気づいたのか体を引いた。


「あのハバトさん。今日の校内の案内役は誰ッスか?」

「ゴリアナ教官だ」

「あの見覚えのあるマッチョはそうだと思ったッス」


 昇降口で仁王立ちをする長身マッチョな教官が二人がいうゴリアナさんかな?

 顔立ちは二十代後半くらいで美しい感じはするが、タンクトップがはち切れそうなくらい筋肉が目立っている。

 昇降口で仁王立ちをする相手と目が合うと、向こうはいい笑顔でゆっくりと近づいてきた。


「ほう? ハバトはともかくアインまで来るとはな」

「ゴリアナ教官お久しぶりッス」

「おうよ! でだ、細身の銀髪君が噂のノーチラス君か?」

「初めましてノーチラスです」

「ココの教官をやってるゴリアナだ」


 うん、すごい威圧感だな。

 身長百七十ちょい俺よりも頭ひとつ分大きいゴリアナさんが、真面目な表情で軽く頭を下げてくる。

 俺も相手に習って軽く一礼すると、左隣にいるアインが一歩後ろへ引いた。


「あのゴリアナ教官が丁寧に対応するのは驚きッスよ」

「クソガキを躾ける時とお客の対応をする時を一緒にするなよ」

「ひいぃ!? 急にトラウマを思い出したッス!」

「なんかオレまで巻き込まれてない?」

「はっ! お前ら二人は特にクソガキだったからな」

「「その節はお世話になりました!!」」


 怯えるクソガキ二人といい笑顔をする担当教官。

 あからさまな力関係を見て、俺は苦笑いを浮かべるしかできなかった。

 ゴリアナさんがコチラの反応を見て、呆れたようにため息を吐く。


「まあいい。それで本題を話したいから校内にある客室に移動してもいいか?」

「「もちろんです!!」」

「大丈夫ですよ」


 あの二人とも、なんで真顔で敬礼してるんだ?

 顔をこわばらせてる二人に目を向けた俺は、思わず目が点になってしまう。

 二人の敬礼を見たゴリアナ先生が、いい笑顔まま軽く頷いた。


「じゃあいくぞ」

「はい」「「はい!!」」


 この後、何が起こるかわからないんだが?

 隣にいるアインとハバトの顔は強張っている中、俺は戸惑う気持ちを落ち着かせるようにひとつ深呼吸をする。

 コチラを見て頬を緩めたゴリアナさんは、振り返って校内へ進んでいく。


 ん、今のは何だ?

 校内でも土足で行けるみたいで、俺はブーツのまま中へ入る。

 その時にどこからか視線を感じたが、今は前を見るのが大切なので気にせずにゴリアナさんの後ろをついていく。


 ⭐︎⭐︎


 兵士学校の建物内にある客室。

 部屋の大きさは教室の半分ほどで、木のテーブルや年季物のソファーなど、最低限の家具しか置かれてない。

 俺とアインは入り口側のソファーに座り、反対にはゴリアナさんとハバトが座った。


「さてと、ノーチラス君はウチの前準備の話をどこまで知ってる?」

「ハバトから、新入生の歓迎会のために三年生が魔獣狩りをするとは聞いてます」

「なるほど……。ノーチラス君の反応的にコチラの情報が伝わってそうだな」

「ええ、オレなりに伝えましたしね」


 前準備に参加するとしても、戦闘要員よりも後方に行きたかった。

 ニヤリと肉食獣のような笑みを浮かべるゴリアナさんに、俺は変な寒気を感じる。

 隣に座るアインを見ると体を震わせており、俺の服の裾を握ってきた。


「ダンナ、本当にこの依頼を受けてもよかったんスか?」

「料理の感想を貰ったりバーの宣伝にもなるから条件は悪くないだろ」

「だと良いっスけどね」


 正直コチラの得はそこまで大きくない。

 ただハバトには魔獣を運んでもらったから、そのお返しで依頼を引き受けた。

 微妙な空気が客室に広がる中、俺は流れを変えるために話を続ける。


「ふと気になるんですが、部外者の自分が参加しても良いのですか?」

「その辺はウチの卒業生で優秀だったハバトの推薦だから問題ない」

「なるほど……。ん? もしかしてハバトから俺の情報を聞いてますか?」

「君が危険度Cのサーベルタイガーを討伐できるのは聞いてるぞ」


 まだ漏れても大丈夫な情報だけでよかった。

 ゴリアナさんの言葉にホッとしながら、隣に座るアインをチラッと見る。

 先程よりは緊張がなくなったのか、アインが軽く息を吐いた。


「前にアタシ達が商業ギルドへ持ち込んだヤツッスね」

「だなー。っと、話は変わりますが、その前準備になんで自分を読んだんですか?」

「ウチが魔獣狩りを行うリーンの森がから今回は生徒の護衛を強化したいんだよ」

「確かにリーンの森での出入り口付近にサーベルタイガーがいましたしね」

「……そ、その話は本当か?」

「本当です」


 そりゃ危険度Cのサーベルタイガーが出入り口付近にいたらビビるよな。

 目が点になってるゴリアナさんへ、頬を吊り上げたアインが自慢げに胸を張った。


「ちなみにサーベルタイガー以外に軍隊ウルフやオーグの群れもいたッスよ」

「今の話を聞いて護衛を増員したわたしは英断だな」

「自分で言うんスね……」


 安心する前に魔獣狩りの中止を考えた方が良くないか?

 色んな意味で突っ込みたくなるが、兵士学校の授業には口出しできないので胸の中へしまう。

 客室の空気が良くなったので、俺は部屋の中を回した後にゆっくりと発言していく。


「しっかし、ほんといい時にノーチラスさんを雇えてよかったぜ」

「ちょっ!? アタシを忘れてるッスよ」

「ははっ、悪い悪い!」


 やっと二人もいつものペースになってきたな。

 アインとハバトのやり取りを聞き、俺は気持ちが楽になる。

 前を向くとゴリアナさんが、弟妹を見る姉みたいな目つきになっていた。


「問題児だったコイツらがココまで落ち着くなんてね」

「アタシ達が問題児ならゴリアナ教官は鬼や悪魔ッスよ」

「へえー、そう言うなら昔みたいにしごいてあげようか?」

「ひいいぃ!? ダンナ、助けてッス!」

「ヘルプを出すのが早いな!?」


 アインはほんと防御力が低い。

 カウンターをモロに受けたアインが、半泣きで俺に抱きついてきた。

 少しだけ威圧を放ってたゴリアナさんは、コチラの反法を見て軽く笑う。


「アインはいい人を見つけね」

「そりゃアタシはダンナの妹分ッスからな!」

「なるほど……。じゃあ自慢の兄貴の強さを見せてほしい」

「もちろんッス!」

「待って待って!? こ、この状況で戦うの?」

「「うん」」


 ま、まじかよ……。

 一応ハバトに言われて戦闘用の装備できたけど、自衛のためで戦う気なんてなかったぞ。

 女性二人の頷きに固まってると、ハバトが同情するように首を振った。


「ノーチラスさん頑張ってくれ」

「あ、うん」


 流れ的に逃げるのは無理そう。

 やる気満々で立ち上がったゴリアナさんに、俺はドン引きながら頬を引きつらせる。


「さてと、話はまとまったし訓練場へいくぞ」

「「はい!!」」

「……はい」


 どうしてこうなった?

 俺は状況整理が追いつかないが、流れは決まったっぽいので素直に従う。

 その結果、兵士学校の生徒達が見守る中でゴリアナさんとの模擬戦をする事になりました……。





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