目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第12話・物理戦闘はやっぱり疲れるな

 兵士学校内にある訓練場の中央。

 多くの生徒や関係者が固唾のを飲んで見守る中、審判の教官が高々に叫んだ。


「それではもう一戦開始!!」


 先程は氷魔法で瞬殺できたが、今回は使えない。

 俺は頬をひきつらせながら、教官の合図を聞きバックステップを踏む。

 次の瞬間、勢いよく突っ込んできたゴリアナさんの兜割が俺がいた場所を強く叩く。


「なるほど、魔法頼りの戦い方はしてなさそう」

「魔法の強みを活かせるようにある程度は動けますよー

「なら楽しめそうね」

「いやいや!? 楽しいのはアナタだけですよ!」


 ゴリアナさんの初撃で、地面に小さなクレーターができた。

 俺は内心でビビりながら、長剣を下段に構えて様子を見る。


 向こうはどう動く?

 一定の距離があるおかげで戦えているが、だと力比べはゴリアナさんに軍配が上がる。

 と、なると、俺の片筋的に速度スピードか技の勝負に持ち込みたいな。

 ゴリアナさんが一呼吸整えた後、ニヤリと笑い両手剣の手元を強く握りしめた。


「ノーチラス君も戦いが好きじゃないのか?」

「俺はが好きなだけです」

「そう? じゃあこの戦いに価値を見出してよ」

「ちょっ、ゴリアナさんは相手の話を聞かないタイプですね!?」

「戦いの中で御宅はいらないでしょ!」


 確かにそうだけど、急に来すぎだろ。

 両手剣を中段に構えたゴリアナさんは、ダッシュでコチラへ近づき横薙ぎを放つ。

 そのスピードはかなり早く、俺は少しだけ驚きながら身体強化を発動して左サイドステップで回避する。

 そのまま相手が攻撃をスカした事を確認した俺は、着地したタイミングで地面を踏み締めて前に出る。


「ハアァ!」

「ぐっ!? いい攻撃ね!」


 俺は勢いをつけて長剣を前に出す突き攻撃を放つ。

 ゴリアナさんは俺の突き攻撃を両手剣の腹で受け、勢いを殺さなかったのか尻餅をつく。

 そのまま俺は追撃を仕掛けようとするが、ゴリアナさんが身体強化を使いながら体勢を立て直した。


「魔法なしでワタシと互角以上に戦えるなんで、アナタは騎士の才能があるぞ」

「申し訳ないですが自分は自由が好きなので騎士にはなりません」

「ノーチラスくんは贅沢だな!」


 俺は贅沢だけど、迷惑はそこまでかけてないはず。

 相手が立ち上がり時に、計回りに回し蹴りを放ってきた。

 その攻撃を長剣の腹で受けた俺は、身体強化の濃度を上げて力を込めて弾く。


「嫌な物を嫌と言って何が悪いんですか?」

「確かに今のはワタシが悪かったな!」

「そう言いながら攻撃の密度を上げないでくださいよ!」

「アナタに勝つために全力を出すのは当たり前でしょ」

「マジレスされた!?」


 この戦闘狂が!!

 ゴリアナさんが訓練用とはいえ両手剣を軽々と振り回している。

 しかも一撃が重たくて、まともに受けたくないレベルだな。

 自分の目の良さと反射神経を使い、俺はゴリアナさんの攻撃を紙一重で回避していく。


「なんでアイツにゴリアナ教官の攻撃が当たらないんだ?」

「オレならワンパンされて沈むのに、アイツは避けるのが上手いな」

「やっぱりあの方はお強いですわねー」

「ちょっ!? アンタのその言い方はキモいわよ!」


 外野からの飛び火にメンタルを削られた気がする。

 地味に生徒からのキモいが胸に刺さってると、ゴリアナさんは不服そうに舌打ちをした。


「すばしっこい!」

「自分は逃げ回るのは得意なので!」

「だけど逃げるだけじゃワタシに勝てないぞ!」

「でしょうね!」


 このまま回避だけしてても無駄に体力を使うだけ。

 相手の気合を入れた水平斬りをムーンサルトで回避しつつ、俺は地面に着地して息を整える。

 互いに決定打がない中、俺は勝負を決めるために体勢を低くしていく。


「ただアナタの

「じゃあ逃げ回るのをやめるの?」


 ここまで動いてるのにゴリアナさんはあんまり息を切らしてないな

 両手剣をしっかりと握るゴリアナさんは、余裕そうな表情を浮かべている。

 その表情を見て俺は思わず頬を緩めてしまう。


 さてと、ギアを上げますか!

 いつも使ってるの身体強化ではなく、俺用に調整チューンナップした身体強化を発動していく。


「いや、ここからが本番ですよ! 強化レイズ

「ッ!? さっきと雰囲気が変わった……」

「すみませんが

「そうみたいだな!!」


 よし、少しはゴリアナさんの余裕を削ったな。

 さっきまでは内面でしか変わらない通常の強化魔法を使っていたが、強化レインを発動すると体から銀色の魔力が放出される。

 ゴリアナさんはこちらの変化を見て冷や汗を流しながら、改めて両手剣を構えた。


「ノーチラスさんって魔法なしでも強いな……」

「そりゃアタシの師匠ッスからね!」

「な、なるほど、嬢ちゃんもあの動きができるのか?」

「多少は出来るッス」

「マジかよ……。っと、向こうも大きく動きそうだぜ」


 なんか、ハバトとアインがなんか言ってないか?

 二人が何を言っているが気になるが、今は先頭に集中するために前を向き続ける。

 ゴリアナさんと睨み合い、俺は地面を踏み締め一気に前へ飛び出す。


「ハアァ!」

「さっきと同じ突き攻撃か!」

「違う!!」


 さっきと同じやり方は面白くない。

 一直線に突き進んだ俺は、カウンター狙いのゴリアナさんの脇を振り抜けた。

 向こうがコチラに反応する直前、俺は気合を入れた横薙ぎを放つ。


「しまった!?」


 ゴリアナさんが反応しようとするが、もう遅い。

 俺の横薙ぎがゴリアナさんのお尻へ直撃して、破裂音が周りに響いた。


「いったあ!?!?」

「相変わらずダンナは容赦ないッスね……」


 俺は長剣に力を込めて振り抜くと、相手は地面に転がった。

 悲鳴を上げて倒れたゴリアナさんは両手剣を手放し、叩かれたお尻をズボンの上から摩り始める。

 大きな隙ができたので、俺は容赦なくゴリアナさんの背中を踏んづけて長剣を後頭部へ向けた。


「ごふっ!?」

「勝負はつきましたね」


 これで俺の勝ち。

 少し大人がなかった気がするが、俺はゴリアナさんを踏んづけながら審判がいる方へ向く。

 すると審判をしている教官さんが、ドン引きをしたような目でコチラを見てきた。


「あ、あの、ゴリアナさんを子供扱いするなんて……」

「えっと? 決着はついたと思うので勝敗をつけてください」

「は、はい! 勝者は、お名前は何でしたか?」

「ノーチラスです」

「コホン。改めて勝者はノーチラスさん!」


 よし、これで勝負はついた。

 俺はゴリアナさんの背中から足を退けて、アインとハバトがいる場所へいく。

 その時に戦いを見ていた生徒達の戸惑う声が聞こえた。


「ゴリアナ教官にお尻叩きで勝つとは……」

「まさかのサディストかよ」

「まあでも、わたしはあの方にお尻を厳しく叩かれてみたいですわ!」

「さっきからアンタはド変態すぎるわよ!?」


 うん、生徒の言葉は聞かなかったことにしよう。

 俺は冷や汗を流しながら、満面の笑みを浮かべるアインへ手を振り返すのだった。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?