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第13話・試合が終わり後始末をしていきます

 訓練場でゴリアナさんとの試合が終わった後、俺達は生徒の視線を浴びながら校舎へ向かう。


 とりま、何とかなってよかった。

 先頭を歩くゴリアナさんは今も手でお尻をさすっているが、さっきよりは痛みがなくなったのか足取りはしっかりしている。

 校舎の廊下を歩きながらホッとしていると、俺の隣を歩くアインが不安そうな目でコチラを見てきた。


「ダンナは実力を見せてもよかったんスか?」

「よくはないけど今のやり方が最善だろ」

「なるほど……。ほんとダンナは不器用ッスね」

「ん? なんか言った?」

「いや、何でもないッスよ!」


 アインの返答が気になるな……。

 真面目そうな表情を浮かべるアインに、俺は首を傾げる。 

 コチラの話を黙って聞いていたハバトが、めっちゃいい笑顔を浮かべながら口を開く。


「お前らは青春してるな!」

「俺はもう若くないんだが」

「若くないって、ノーチラスさんはまだ二十歳くらいに見えるぞ」

「まあ、色々とあるんだよ」

「よくわからないが、なんか引っかかってるんだな」


 そりゃ俺には前世のアラサー社畜の記憶があるしな。

 見た目は二十歳くらいでも精神年齢は五十歳前で、この中では一番年上になる。

 内心で自分の実年齢を考えて悲しくなってると、隣にいるアインが俺のジャケットの右袖を軽く触った。


「アタシからすればダンナはダンナッスよ」

「ん? つまりドユコトだ?」

「秘密ッス!」

「すごい気になるんだけど!?」


 コイツ、いつもの感じに戻ったな。

 煽り厨みたいなメスガキ感を出すアインにホッとしていると、客室についたので俺達は中へ入る。


「しっかし君らは仲がいいな」

「そりゃアタシとダンナは太い縄で繋がってるッスからね!」

「確かに俺が騎手でアインがジャジャ馬だからその例えば合ってるな」

「そうそう! アタシがダンナを好き勝手振り回しているッス!」

「君らの関係は特殊すぎないか!?」

「「それはそう!!」」


 そもそも俺が特殊だしな。

 客室の奥にあるソファーに座ったゴリアナさんが、戸惑いながら頬をひきつらせているハバトの方へ視線を向けた。


「アインはともかく、ノーチラス君は何者なんだ?」

「さあ? オレもノーチラスさんが過去に何をやってたか知らねーんだよ」

「なるほど……。まあ、戦闘の腕が良くて人の話が聞ける時点で問題はないか」


 いやあの、選考基準が緩すぎないか?

 ゴリアナさん達の会話に突っ込みそうになりながら、俺とアインは出入り口側のソファーに座る。

 客室に微妙な空気が流れる中、顔を上げたアインが口を開いた。


「前準備に話を戻すッスけど、アタシとダンナは当日の参加でいいッスか?」

「と、いうと?」

「今回の依頼はあくまで副業で、アタシとダンナにはがあるんスよ」

「ん? アインは情報屋なのは知ってるが、ノーチラス君は冒険者か傭兵じゃないのか?」


 なんか話が食い違ってないか?

 アインとゴリアナさんのすれ違いっぽい会話に、俺は修正しようとする。

 ただその前に目の前のソファーに座ったハバトが、苦笑いを浮かべながら話し始めた。


「いや、ノーチラスさんは酒場バーのマスターをやってるんだよ」

「……なるほど、その若さでセミリタイアしたのか」

「んー、まあ、そんな感じですね」

「なんか曖昧な返事だな」


 激務だった冒険者時代を掘り返すのは嫌だし曖昧にもなるよ。  

 微妙な反応をするゴリアナさんから目を逸らしつつ、俺は隣にいるアインへ視線を向ける。


「自分の事は置いといて、アインが言ってただけ参加したいです」

「問題はないが一々サハクから休憩拠点に移動するのは面倒じゃないのか?」

「魔法の箒があるので移動自体は大丈夫ですよ」


 魔法の箒は一定量の魔力を持つ人しか使えない。

 その基準が魔法書持ちのため一般にはあまり出回ってないが、俺は魔力がかなり豊富なので余裕で乗れる。


 ちなみにアインも魔力は多いが、本人は気づいてないみたいだから折を見て指摘したいところ……。

 頭の中で本題から逸れたことを考えてると、コチラの意図を理解したゴリアナさんが納得したように頷いた。


「なるほど、それなら移動は問題なさそうだな」

「そうそう! あ、アタシはダンナと一緒に行動するッスよ」

「だとすると、嬢ちゃんも当日の朝までサハクにいるのか?」

「もちろんッス!」


 休憩拠点にある宿屋よりもウチの寝具の方が良さそうなのはわかるが、アインは速攻で首を縦に振ったな。

 めっちゃいい笑顔を浮かべるアインへ、俺は少し頭が痛くなった。


「たまには宿屋で寝てもいいぞ」

「いやいや、アタシはダンナの家にあるベッドがいいんス!」

「ん? お前らは同棲してるのか!?」

「同棲ってよりもコイツがウチに居候してるんだよ……」

「どっちにしようが一緒に住んでない?」


 確かにハバトの言い分もわかるが、俺は別にアインと結婚してるわけじゃないぞ。

 ハバトのツッコミに、アインは隣で頬を赤めて照れている。

 俺は年齢差も考えて内心で否定してると、コチラの話を聞いていたゴリアナさんが満面の笑みを浮かべた。


「教え子がいい男を捕まえてきて嬉しいよ」

「ッス! ダンナの妹分としてこれからも振り回していくッスよ!」

「ワタシが想像してたのと違う!?」

「うん、オレもゴリアナ教官と同じことを思ったぞ」


 でしょうねー。

 俺達がズレてるのは理解してるので、ゴリアナさん達のツッコミを否定できない。

 たださっきよりは流れが良くなったので、俺は息を整えつつ言葉を返す。


「そんなわけで俺はバーの本題は終わりでいいですか?」

「急に話をぶった斬ったな!?」

「いやあの、このままだとまた話がズレるのでさっさと終わる方がいいですよね」

「確かに……。って、ノーチラスさんに言われるのは釈然としない」


 うん、そこは納得はしなくてもいいけど理解はしてください。

 難しい顔をするハバトの右肩へ、ゴリアナさんが苦笑いを浮かべながら手を置いた。


「ワタシも長剣で叩かれたケツが痛いから一旦お開きにしたい」

「な、なるほど……。じゃあ、オレも傭兵の仕事に戻るぞ」


 お開きね。

 ゴリアナさんの言葉選びが少し引っかかるが、俺はアインと同じタイミングで立ち上がる。


「では何かあったらハバトへ連絡してください」

「ノーチラスさんも何かあったらハバトに伝えてくれよ」

「わかりました」

「ん? なんかオレが連絡役になってない?」

「お前が雇った相手だからそれくらいやれ」

「は、はい!」


 おお、ゴリアナさんの圧でハバトが怯んだな。

 二人の力関係が再確認できたので、俺は可哀想なハバトから目を逸らす。

 隣に座るアインも帰る準備ができたのか、めっちゃいい笑顔で頷いた。


「さっさと帰るッスよ」

「おう! あ、俺の長剣と鞄を返してくれるか?」

「もちろんッス!」


 これで帰れる。

 アインに預けた鉄の長剣と収納鞄を返してもらった後、俺はゴリアナさん達が座る方へ向く。


「それでは当日はよろしくお願いします」

「コッチこそよろしく頼む!」

「はい! では、失礼します」

「お邪魔したッス!」


 俺とアインは一礼してから客室の外から出ていく。


「なんてか、すごい相手を連れてきたな」

「ノーチラスさんの腕は確かなのはゴリアナ教官も体感しただろ」

「ああ、今でも彼に叩かれたケツがめっちゃ痛い」

「そ、そうか……」


 なんかハバトの困った声が聞こえるような?

 部屋を出たタイミングで、ソファーに座る二人が何かを話している。

 ただ今はがあるから、俺は気にせずに客室のドアを閉めた。


「ダンナはこの後どうするッスか?」

「んー、とりま自宅に帰りたい」

「それならお供するッス!」


 相変わらずコイツは甘えん坊だな。

 アインがめっちゃいい笑顔でサラッと俺の左腕に抱きついてくる。

 いつものことなので受け流しながら、俺はアインと共に兵士学校の敷地外へ向かうのだった。




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