……ん……なんじゃ……? 身体があたたかい……。
春の日差しと、柔らかな羽毛に包まれているかのような感触だ。
そっと目を開けた。真っ暗だった世界に光が灯り、木の天井が見える。背中の感覚から、どうやらベッドの上に寝かされているらしい。
なんだか長い夢を見ていた気がする。
魔王として生まれて、勇者一行の仲間になり、旅をした……そして最期には、勇者の剣に刺されて……そうだ、わらわらは死んだはず……。
まさか、生まれ変わったのか?
それにしては、死ぬ前の記憶をもっていることが不思議だ。
これが人間たちの間で流行っている『転生』というやつじゃろうか。
そういえば勇者のやつが言っておったの。確かあやつも自分のことを転生したとかなんとか…………ああいかん、頭がくらくらする。
ここがどこかは分からないが、もうしばらく眠って身体を休めていよう。
ごろん、と寝返りをうって横を向く。
そこに、見覚えのある勇者の顔がこちらを覗いていた。
「やぁ、目が覚めたかい?」
「ぎ、ぎゃあああ~~~~~っ!!!」
驚いて飛び上がり、ベッドの端っこまで後ずさる。
口から心臓が出るかと思ったわっ。
「ど、どうしてお主がここにおる?」
……あ、声がでる。しかもわらわの声じゃ。
よく見れば、手足や身体……チチも全部、もとの姿のままだ。……ちっ。
勇者が困った笑みを見せた。その横から、見覚えのある聖女が顔を出す。
「あなたは一度死んだわ。でも、私がこの聖杖エターナルロッドを使って生き返らせたの」
聖女が手にしている杖を握り、険しい表情を浮かべている。その顔には、どこか後ろ暗い色が見えた。
「な、なぜそのようなことをした? わらわは魔王じゃぞ。それを復活させるとは……お主、正気かっ?!」
「俺がそれを望んだからだ」
今度は、勇者が答えた。その目は真剣そのものだ。
勇者が魔王であるわらわの復活を望んだ? わけがわからない。
「俺は、今まで一緒に苦楽を共にしてきた仲間のことを決して見捨てない。きっとお前のことだ。魔王として生まれた責務を果たさなければいけないという使命感で俺たちに敵対したのだろう。でも本心では、俺たちを攻撃なんてしたくなかった筈だ。その証拠に、あの魔王城でのお前の戦い方は、本気を出していなかった……剣を交えた俺だからこそわかる」
勇者が、腰に差してある剣に手をやる。光の剣だ。
わらわは、あれに胸を貫かれて死んだ……それは確かだ。
ずきん、と胸が痛んだ気がして、わらわは胸元を抑えた。なぜだかそこが、すーすーする。
「〝魔王〟としてのお前は死んだ。だから、もう自由に生きていいんだ……マオ」
死んだ……?
そうだ、確かにわらわは勇者の剣に刺されて死んだ。
一度死んで生き返ったわらわは、もう〝魔王〟ではないのか?
自由に生きてもいいのか……本当に…………?
わらわを見る勇者の顔が
「マオ……」
勇者の手がわらわの頭をなでる。慰めているつもりなのだろう。
わらわは、なぜだか無性に………………腹が立った。