「おはようございまーす!」
宣言したとおり、かなーり早い時間にリリィアが訪れた。
「おーすっー……ふわぁ~~~」
「きゃ!? どうしたのその顔! 全然眠ってないみたい!」
「大丈夫大丈夫、ちょっと色々確かめてる内に気付いたら朝になってただけだから」
「何一つ大丈夫そうじゃないんですけど?!」
「そんなことより、早速リリィアに聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと?」
あくびは出るが身体の調子はすこぶる良くなっていた。
荷物の中にあった外着に着替えて準備を整えたオレは、マントをたなびかせる。
「どうやらオレが王都から来たここの農場の主らしい。荷物の中に通達書があった」
「良かったじゃない。自分が誰か思い出せたんでしょ?」
「それは微妙。ただ、ここに来た目的はなんとなく分かった。それでちょっと頼みたいんだが」
その目的を達成するために、オレがやるべきことは多い。
まずリリィアにお願いすべきことは――。
「あ、もしかして知り合いに連絡をして欲しいとか?」
「いや?」
全然違ったので、オレはしっかりと頼み込む。
「フロストタウンにいる、鍛冶と植物――それぞれに詳しい人を紹介して欲しい!」
……
…………
フロストタウンに到着したオレは道すがら町の話やなんやを聞きながら、リリィアの案内で鍛冶屋に到着した。フロストタウン自体は予想よりも住人の少ない町だったので、華やかさ、お店の数、活気は王都とは比べるべくもない――とはリリィアの談である。
「でも、町にはかなり凄い人もいるの。鍛冶屋のアレックスさんもその一人よ」
「そんなに腕がいい鍛冶師なのか?」
「うん! それにすっごく強いの! いつぞや町の近くに魔物が迫った時はもうズバズバズババ! ってすぐに倒しちゃったんだから」
リリィアの剣を振ってるらしき身振り手振りを交えた説明はコミカルで、中々に興味をそそられる。誇張はあるのだろうが、そこには嘘ひとつ混じっていないようだ。
これはいわゆる町の英雄譚なのかもしれない。
「じゃあ、そんなアレックスさんに挨拶しないとな」
「ああっ、まだこの話には続きがあるのに~」
残念そうなリリィアを尻目に、鍛冶屋の中へと足を踏み入れる。
多分、炉の熱によるものなのだろうか。
室内はかなり温かく、少々肌寒かった外で冷えた体があたためられるようでホッとする。
質素なカウンターから手前――入口側の棚や壁には金属製の武器・防具・道具などが陳列されており、カウンターから奥は工房として使っているのか頑丈そうな作業台、金床、ハンマーなどが置かれていた。
「ただ作るだけじゃなくて、武器・防具屋も兼ねてるのか」
「町にはこういったお店はココしかないからね。アレックスさーん、おはようございまーす!!」
リリィアが店の奥に声をかけると「ぅおーす」と男の声が返ってきた。
「ガハハハ! おはようさんだぜ嬢ちゃんよ!」
リリィアの挨拶に反応してカウンターの下から野太い声が響く。のっそり顔を出したのは、見ようによっては山賊に見えなくもないワイルドで厳つそうなおっさんだ。
「こんな早くからどうしたどうした。愛用包丁のメンテナンスか? それともおっちゃんに無償の愛でも届けにきたかい?」
「残念ハズレで~す♪ あんまり女の子に変な冗談を言うと嫌われちゃいますよ」
「だはははは! だったら今度は女の子にモテるナイスな冗談を考えねえとな」
アレックスはかなり気さくなおっさんで、リリィアとはいつもこんな感じといった雰囲気が出ている。二言三言話すと、リリィアがオレを紹介してくれた。
「こちらの方はキョウイチさんといって、アレックスさんに挨拶とお話しがあるんですって」
「ほお。見たことねえ面(つら)だが、この町に新しく住むことになった口かい?」
「初めましてアレックスさん。オレはキョウイチと言います。この度はリリィアにお願いしてあなたに――」
「王都や魔法学院でよく耳にするような挨拶はいらねえ。遠慮することはねえから、もっと気軽に話せ。オレは荒っぽいから、変に丁寧な挨拶は身体がかゆくなる」
「じゃあ遠慮なく。これから色々世話になるだろうから、よろしくしてくれアレックス」
「ガッハッハ! よろしくするかどうかはお前次第だ。どんな用事があるのか知らねえが、気に入らなきゃ遠慮なく断るからなぁ」
町の外から来たオレという人間がどんな奴か確かめてやる。そんな意思を感じる視線だが、初対面相手ならこんなものだろう。流刑地として扱われる町なのだからおかしいことではない。
つまりは、よそ者ってだけだ。
「で、このおっさんに何の用だって?」
「率直に言えば、必要な物を融通してほしい」
「ああん? いい武器でも欲しいってか。オーダーメイドならそれなりの金がかかるが、その辺に並んでる奴なら安いのもある――」
「まずクワが欲しい」
「は?」
「それから、オノとハンマーとカマ。他にはスコップとかハサミもあればいいな。それぞれ用途によって使い分けたいからサイズや形も色々あるなら見せてほし――」
「待て待て待て! 一旦止まれ!」
「なんだよ。まだこんなの序の口なのに」
「どんだけ欲しい物が多いんだよおめえさんは! つうか初っ端から武器として使うにしちゃおかしなもんがあるだろが!」
「おかしなツッコミだなアレックス。オレは一言も武器を売ってくれなんて口にしてないぞ」
「そりゃそうだがよ……」
「ただまぁ、武器って言い方も間違っちゃいないか」
「どういう意味だ?」
怪訝そうなアレックスに対して、オレはニヤリと笑ってみせる。
「すべては農家の武器ってことさ!」