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第4話:お披露目会と神様の贈り物

三歳になった私は、庭を超えて領館の外へも散歩に出られるようになった。


外の空気はまだ少し冷たく、春の匂いと土の匂いが混じり合っている。


そんなある日の午後、執務室の大きな机を囲んで家族と家臣たちが集まった。


「ネセレの力を、外でどこまで見せていいか……考えなきゃいけないな。」 父が腕を組んで真剣な顔をしている。


母は微笑みながらも、その瞳には深い思慮が宿っていた。


「あの子の力は素晴らしいわ。でも、世の中には妬む者もいるから……。」


兄たちは私のそばに座り、小さな手を握ってくれている。


「ネセレはすごいんだから、自慢していいよ!」


「でもね、悪い人に狙われたら大変だよ?」と、もうひとりの兄が不安げに言った。


しばしの沈黙のあと、父が大きく頷いた。


「……もしも悪いやつが現れたら、この父が、領主として必ず守る。だから、好きなようにやりなさい。自分の力を誇れ。」


胸が熱くなる。前世では、こんなふうに自分を信じて背中を押してくれる人はいなかった。


私は小さな手でぎゅっとスカートの裾をつかんだ。


「……はい!」


◇◇◇


そして迎えたお披露目会の日。


広間には近隣の貴族やその家族が集まり、庭には色とりどりの花が飾られている。


私の胸は緊張でどきどきと高鳴っていた。


母が私の髪を整え、兄たちは「大丈夫だよ、かわいいよ!」と励ましてくれる。


そのなかに、王女様の姿があった。


淡い金色の髪が光を受けてきらめき、気品のある笑顔を浮かべている。


私は胸元のポケットをそっと撫でた。


そこには、昨日の夜、こっそりと等価交換で作った特別なものが入っている。


材料は……父が若い頃に折ってしまい、大切にしまっていた剣の破片。


父の許しを得て、その欠片を使わせてもらったのだ。


光沢の残る刀身を思い描きながら、私はそれを細工し、繊細な銀のネックレスへと変えた。


「ネセレ、おいで。」母がそっと背を押す。


私は小さな足で広間の中央まで進み、王女様の前に立った。


「……これ、あげます。」


手を開くと、光を反射して輝くネックレスが現れた。その瞬間、広間がどよめいた。王女様は瞳を見開き、そっとそのネックレスを手に取る。


「まぁ……なんて美しい……これを、私に?」


「はい!ネセレが、つくりました!」


誰かが息をのむ音が聞こえた。別の誰かが「まるで神様の祝福のようだ」とつぶやく。


父がゆっくりと前に出て、胸を張って言った。


「私の娘は、生まれながらに特別な力を授かっております。それはきっと、神様からの贈り物なのです。」


瞬く間に広がるささやき。


「神様からのギフト……。」


「あの子が……?」


王女様は微笑んで、首にネックレスをかけた。


光がきらめき、まるで春の陽だまりのように温かく輝いた。


「ありがとう、ネセレ。これは私の宝物にするわ。」


その言葉に、胸の奥がじわりと熱くなり、私は思わず笑顔になった。


父が嬉しそうに目尻を下げ、母が静かに頷く。


兄たちは「すごい!すごい!」と飛び跳ねている。


こうして、私の力は「素敵な神様からのギフト」として周囲に知られることになった。


けれど、それはきっと、この家族と共に歩む未来への第一歩なのだ。


ネセレ、3歳。小さな手から生まれた輝きが、広間いっぱいに希望を灯した春の出来事である。

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