春の昼下がり、庭に小さな机を並べ、兄たちと一緒にまた“おみせやさんごっこ”を始めていた。
木陰から差し込む陽光が、並べた小箱やブローチをやさしく照らす。
私は小さなエプロンをつけて、今日も胸を張って店長を務めている。
「いらっしゃいませー!いらっしゃいませー!」
「今日は何を交換しますか?」
兄たちが元気よく呼び込みをしていると、門のほうから人影が現れた。
ご近所の農家の奥さんだ。
続いて庭師のおじいさんや、鍛冶屋の青年もやってくる。
「ネセレちゃん、ここで要らないものを引き取ってくれるって本当かい?」
「ええ!この葉っぱがお金のかわりですから、ひとつ出してくださったら、これと交換しますね!」
母が家の奥から顔を出し、頷きながら声をかけてくる。
「要らないもの、何でも持ってきていいですよ。ネセレが素敵なものにしてくれますから。」
それを聞いた人々は目を輝かせ、ぞろぞろと家に戻っては、古い道具や割れた皿、欠けた櫛や古布を抱えて戻ってきた。庭はあっという間に“廃品市場”のような賑わいを見せる。
「これはね……新しいスプーンになるよ!」
小さな両手をかざすと、折れた木の柄が、艶のある木目をもつ美しいスプーンに変わる。
「この欠けたお皿は……よし、まあるいお皿に!」
陶片が光を放ち、滑らかな白磁の皿に生まれ変わると、おばあさんが「まあまあ!」と感嘆の声を上げる。
「じゃあ、これは?」と、若い娘さんが差し出したのは使い古した化粧道具だった。
私はそれを手に取り、前世の知識で思い描く。
現代で使っていた口紅やファンデーション、化学的な質感や色彩……
「等価交換……きれいな化粧品に。」
一瞬、光が迸り、小さな瓶が現れる。だが、栓を開けた途端、奥さんが「わあっ……!」と声をあげた。
瓶の中からは淡く輝くクリームが現れ、頬に塗ると光を受けてほんのり桜色に染まる。
「な、なんだいこれは……普通の化粧品より、ずっと発色がいい……!」
さらに、割れたグラスを見ながら現代の知識で想像した結果、強化ガラスのように軽くて丈夫なコップが生まれ、鍛冶屋の青年は「こんなもん見たことねぇ!」と目を丸くした。
「……あれ? なんか、前世の知識を混ぜたら……すごいものができてる?」
気づけば、庭のあちこちで人々が歓声をあげている。
兄たちは「うちのネセレ、すごいだろ!」と胸を張り、母は楽しそうに新作の食器を並べている。
父は遠くから腕を組んで見守り、誰よりも満足げな笑みを浮かべていた。
「ネセレ様!これもお願いしていいですか!」
「次は私のもお願い!」
人々の手にはまだまだ廃品がいっぱい。
私は少しだけ汗を拭って、でも胸を張った。
「もちろんです!なんでもください!」
――そうだ、前世で学んだ知識を活かせば、この世界では無双できるかもしれない。
私の小さな店は、もうただの遊びではなくなっていた。
ネセレ、3歳。お庭の小さなリサイクル店が、村中を笑顔にした夏の出来事である。