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第7話:護衛さんを雇いました!

秋の風が涼しくなってきた頃、事件は起こった。


お店がますます評判を呼び、庭先には毎日のようにお客さんが訪れていた。そんなある日のことだ。


「ここが例の『異界の錬金釜』か……。」


門の外から不穏な声が聞こえた。


現れたのは、見慣れぬ鎧姿の男たち。


剣を帯びており、視線はまるで獲物を狙うようだった。兄たちがとっさに私の前に立つ。


「おい、そこの子供だな。こっちへ来い。」


「……? あなたたちはだれ?」


「俺たちと来れば、もっといい暮らしができるんだぞ。ほら、さっさと支度しろ。」


言葉は甘いが、目は笑っていない。


ぞくりと背筋が冷えた瞬間、門の奥から力強い声が響いた。


「……うちの娘に、なんの用だ?」


父だった。大股で歩み出ると、ただそれだけで空気が張り詰める。


辺境伯として鍛えた気迫がその場を覆った。


「お、お前は……辺境伯か……!」


「さっさと失せろ。今なら見逃してやる。」


父の一言で、男たちは舌打ちしながらも退散していった。胸をなでおろした私に、父は優しく笑いかける。


「大丈夫だ、ネセレ。お前を誰にも渡さん。」


けれど、その夜、母や兄たちと話し合う中で、不安が胸をよぎった。


父が外に出ているとき、もしまた悪いやつが来たらどうしよう……?


「……お父さまがいないときが心配です。」


「そうね……護衛を雇いましょうか。」


◇◇◇


それから数日後。


いつものようにお店を開いていると、ひとりの男がやってきた。


くたびれた外套を羽織り、腰には折れかけの剣を下げている。


「嬢ちゃん、これ……直せるかね?」


差し出された剣は、刃こぼれし、鞘もひび割れていた。私は剣を手に取り、じっと見つめる。


前世で読んだ鍛冶の知識を思い出しながら、心の中でイメージを描く。


「等価交換……新しい剣に。」


光が走り、剣は瞬く間に生まれ変わった。


銀色の刃は鋭く、鞘には簡素ながらも美しい装飾が施されている。


「……おお……すげえ……!」


男は手にした剣をしげしげと眺め、ふいに膝をついた。


「嬢ちゃん……いや、ネセレ様。俺を雇ってくれないか。俺はもとは傭兵だ。今は落ちぶれてるが、この剣があればまだ戦える。あんたを、守らせてくれ。」


「ほんとに?おじさん、強いの?」


「少なくとも、腕には覚えがある。命に代えても、あんたを守る。」


母は目を細め、兄たちは「おお!かっこいい!」と声をあげる。


父が不在のときの護衛役……これ以上ない人材かもしれない。


「じゃあ、お願いします!おじさん、これから私のお店の仲間です!」


「……ああ、任せとけ。」


こうして、私の小さなお店に新しい仲間が増えた。


庭先の風は冷たくなり始めていたが、胸の中は不思議と温かかった。


ネセレ、3歳。小さなお店と大切な家族を守るため、頼もしい護衛さんを迎え入れた初冬の出来事である。

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