夏がやってきた。
庭の木陰でさえ、昼間は汗ばむほどの陽気で、私は小さな手で扇子をぱたぱたさせながら考えた。
(こんなに暑いんじゃ、みんな元気がなくなっちゃう……何か冷たいものがあればいいのに。)
そう思った瞬間、前世の記憶がひらめく。
――アイスクリーム。
◇◇◇
「ネセレ、今日は何をつくるの?」 兄たちが興味津々でのぞき込む。
私は台所から牛乳とジュースを持ってきて、作業台に並べた。
「これを冷たくして、美味しくするの!」
両手をかざし、心の中で強く願う。
「等価交換……ひんやりアイスに!」
牛乳が淡く光り、瞬く間にふわりとした白いアイスクリームに変わる。
ジュースは鮮やかなオレンジ色のシャーベットに変わり、冷たい空気が周囲に広がった。
「わぁぁぁ!つめたい!」「なんだこれ!?」 兄たちはスプーンを手に取り、恐る恐るひと口。
次の瞬間、顔がぱっと輝いた。
「おいしい!!」「こんな食べ物、食べたことない!」
母が嬉しそうに微笑む。
「まぁ、これなら夏でも元気が出そうね。」
◇◇◇
お店に出してみると、瞬く間に大人気になった。
ジュースを持ってくる人、牛乳を差し出す人、水筒を抱えて走ってくる子供までいる。
私はどんどん等価交換をして、冷たいアイスやシャーベットを次々と作った。
「こっちはいちご味!」
「ぶどうのシャーベットもありますよ!」
兄たちは忙しそうにスプーンを配り、護衛のおじさんは列を整える。
庭はまるでお祭りの屋台のようににぎやかで、笑い声が風に乗って広がっていった。
◇◇◇
しばらくして、旅人が興奮した様子でやってきた。
「ネセレ様!王都でもアイスが噂になってますよ!」
「えっ、ほんと?」
「ええ!王さまもご飯のあとに食べて、『こんな美味しいものがあったとは!』と大喜びだったそうです!」
私の小さな胸が高鳴った。王さまがアイスを……!
思わずにっこり笑い、スプーンをくるりと回した。
「じゃあ、もっと美味しいのを作らなくちゃね!」
牛乳と果物を混ぜてみたり、水と蜂蜜でシャーベットを作ったり。
次々と新しい味を試しながら、私は夢中で魔法を振るった。
庭の風がほんのりと甘く、ひんやりとした香りを運んでくる。
ネセレ、4歳。小さな手から生まれたアイスの魔法が、王都までをも虜にした真夏の出来事である。