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第11話:王都ブームの火付け役と、自転車への挑戦

秋風が涼しく吹き抜ける頃、私はすっかり王都でも名前を知られるようになっていた。


旅人や商人が庭先で「王都で流行っているあのアイスはここだって!」と囁き、時には「ネセレ様が作った新しいお皿、売り切れてたよ」と言ってくれる。


「最近、商人たちが真似して色んなものを売っているらしいぞ。」


護衛のおじさんがそう教えてくれた。


私はちょっと胸を張って「それなら、もっと新しいものを考えなくちゃね!」と笑った。


その日の夕方、お店のカウンターに並んだお客さんたちから次々に同じ言葉が飛んできた。


「ねえ、ネセレちゃん。最近は新しいものはないの?」


「何かすごいの、また見せておくれよ!」


私は少し考えてから、ふと庭の隅に置かれた古い馬車に目をやった。


車輪はまだ丈夫だし、木枠も頑丈だけれど、大きすぎて使い道がないまま放置されていた。


「これを……もっと便利にしたら、みんな喜ぶかな?」


両手をかざし、心の中でイメージする。


軽くて、ひとりでも進めるもの。


ペダルをこいで、風を切って走るもの――前世で見慣れた、自転車。


「等価交換……馬車を、自転車に!」


光がほとばしり、馬車の姿がみるみる変わっていく。


次の瞬間、私の前に現れたのは、つややかな銀のフレームに、しっかりした二つの車輪。


ハンドルとペダルがついた、まぎれもなく自転車だった。


「す、すごい!これが……?」


「おお、これなら一人でどこへでも行けるな!」


兄たちが目を輝かせ、護衛のおじさんが車輪を回して感心する。


私も思わず笑顔になった……が、ふと気づいてしまった。


「……あれ? でも……荷物、乗せられない?」


自転車の後ろには小さな荷台がついてはいるけれど、大きな商品を載せるには狭すぎる。


商人さんたちは困った顔を見合わせた。


「アイスをたくさん運ぶには……これじゃあ足りないかもね。」


「せっかくのすごい乗り物なのに!」


私は顎に手を当てて考え込む。


たしかに便利だけれど、今のままじゃ荷物を運ぶには向かない。


「……でも、これを改造したら、もっとすごいものになるかも!」


胸の奥がわくわくと弾ける。父がにこにこと私を見ている。


「ネセレ、次は荷物がたくさん積めるように考えてみろ。」


「うん!もっとすごいのを作ってみせる!」


そう言って、私は新たな挑戦に胸を膨らませた。


等価交換の力は、まだまだ進化できるはずだ。


ネセレ、4歳。王都で名を知られる小さな錬金術師は、次なる夢へとペダルをこぎ出した。

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