秋風が涼しく吹き抜ける頃、私はすっかり王都でも名前を知られるようになっていた。
旅人や商人が庭先で「王都で流行っているあのアイスはここだって!」と囁き、時には「ネセレ様が作った新しいお皿、売り切れてたよ」と言ってくれる。
「最近、商人たちが真似して色んなものを売っているらしいぞ。」
護衛のおじさんがそう教えてくれた。
私はちょっと胸を張って「それなら、もっと新しいものを考えなくちゃね!」と笑った。
その日の夕方、お店のカウンターに並んだお客さんたちから次々に同じ言葉が飛んできた。
「ねえ、ネセレちゃん。最近は新しいものはないの?」
「何かすごいの、また見せておくれよ!」
私は少し考えてから、ふと庭の隅に置かれた古い馬車に目をやった。
車輪はまだ丈夫だし、木枠も頑丈だけれど、大きすぎて使い道がないまま放置されていた。
「これを……もっと便利にしたら、みんな喜ぶかな?」
両手をかざし、心の中でイメージする。
軽くて、ひとりでも進めるもの。
ペダルをこいで、風を切って走るもの――前世で見慣れた、自転車。
「等価交換……馬車を、自転車に!」
光がほとばしり、馬車の姿がみるみる変わっていく。
次の瞬間、私の前に現れたのは、つややかな銀のフレームに、しっかりした二つの車輪。
ハンドルとペダルがついた、まぎれもなく自転車だった。
「す、すごい!これが……?」
「おお、これなら一人でどこへでも行けるな!」
兄たちが目を輝かせ、護衛のおじさんが車輪を回して感心する。
私も思わず笑顔になった……が、ふと気づいてしまった。
「……あれ? でも……荷物、乗せられない?」
自転車の後ろには小さな荷台がついてはいるけれど、大きな商品を載せるには狭すぎる。
商人さんたちは困った顔を見合わせた。
「アイスをたくさん運ぶには……これじゃあ足りないかもね。」
「せっかくのすごい乗り物なのに!」
私は顎に手を当てて考え込む。
たしかに便利だけれど、今のままじゃ荷物を運ぶには向かない。
「……でも、これを改造したら、もっとすごいものになるかも!」
胸の奥がわくわくと弾ける。父がにこにこと私を見ている。
「ネセレ、次は荷物がたくさん積めるように考えてみろ。」
「うん!もっとすごいのを作ってみせる!」
そう言って、私は新たな挑戦に胸を膨らませた。
等価交換の力は、まだまだ進化できるはずだ。
ネセレ、4歳。王都で名を知られる小さな錬金術師は、次なる夢へとペダルをこぎ出した。