「さあ、今日は王都で売る日だよ!」
朝早く、リヤカーいっぱいに詰め込んだ品々を見ながら、私は胸を高鳴らせていた。
兄たちも制服を整えてやる気満々だ。
護衛のおじさんが「出発だ」と合図をすると、私たちは王都へ向けて走り出した。
◇◇◇
王都の市場に着くと、すぐに人だかりができた。
看板には『異界の錬金釜・出張販売』と書いてある。遠くから見ていたお客さんが次々と近づいてくる。
「これが噂の品々か!」
「見せて見せて!」
私はにっこり笑ってカウンター越しに商品を並べた。
「こちらはおしゃべり人形です!言葉を覚えてお話ししてくれます!」
人形を手に取ったお母さんが「まあ、なんてかわいいの!」と歓声を上げる。
子どもが「こんにちは!」と話しかけると、人形が「こんにちは!」と返事をしたので、周りから拍手が起きた。
「こちらは綺麗なお皿!軽くて丈夫、そしてどんなお料理も映えます!」
「こっちはアクセサリー!おしゃれで、軽くて、長持ちしますよ!」
お客さんたちが次々と葉っぱのお金……じゃなくて、本物のコインを出して買っていく。
兄たちは商品を手渡しながら「ありがとうございます!」と声をそろえ、護衛のおじさんは人混みの中でもしっかりと私たちを守ってくれている。
◇◇◇
「ネセレ様、これも売り物ですか?」
「あっ、それは……今日の新作です!」
私はリヤカーの奥から鍋と大きなスプーンを取り出した。中には湯気を上げるとうもろこしの粒と、バターのかけら。心の中でイメージを膨らませて――
「等価交換……ふわっとはじけるポップコーンに!」
すると、鍋の中でとうもろこしがぱちぱちと音を立て、みるみるうちに白くて軽いポップコーンへと変わっていく。香ばしい匂いとバターの甘い香りが広がり、通りすがりの人たちが足を止めた。
「わぁ!」
「いい匂い!」
私は紙袋にポップコーンを入れて渡す。
「はい、できたてですよ!」
「うまい!」
「これ、なんていう食べ物だ?」
「ポップコーンっていうんです!」
あっという間に行列ができて、兄たちは袋詰めに大忙し。
お客さんたちは笑顔でポップコーンをつまみながら通りを歩き、私はその光景を見て思わずつぶやいた。
「……なんだか、映画が見たくなるな~。」
もちろん、この世界に映画はないけれど、心の中でスクリーンと笑い声を思い描くと、なんだか楽しくなってきた。
等価交換の魔法がまたひとつ、みんなを笑顔にした。
ネセレ、4歳。王都で初めての出張販売を成功させ、ポップコーンで新しい楽しみを広めた冬の出来事である。