春のやわらかな風が頬をくすぐる日、私は5歳の誕生日を迎えた。
広間に集まった家族の顔が一斉に笑顔になり、兄たちが揃って声をあげる。
「ネセレ、お誕生日おめでとう!」
「もう5さいだ!」
母が大きな箱を私の前に差し出した。
リボンをほどくと、中から出てきたのは小さな帽子。
兄たちとお揃いのデザインで、胸がじんわりと温かくなる。
「これ、みんなとお揃い!」
「そうよ、お店の制服に合わせて作ったの。」
母が微笑むと、兄たちも帽子を被ってくるりと回って見せてくれる。
「それから……お父さんからもプレゼントがあるぞ。」
父が少し照れくさそうに笑い、庭の奥へ案内してくれた。そこには――新しく建て増しされた、大きくなったお店があった。木の香りが新鮮で、窓から差し込む光が床を照らしている。
「すごい……!大きくなってる!」
「これで、もっとたくさんのお客さんを迎えられるね!」
兄たちが目を輝かせ、私は胸が高鳴った。
◇◇◇
せっかくお店が大きくなったのだから、並べるものも大きくしたい。
そう思って、私はさっそく新しい挑戦に取りかかる。
「まずは……この古いカーテンを……等価交換!」
光が走り、くすんだ布は繊細な刺繍の入った新しいカーテンへと変わる。
窓にかけると、部屋全体がぱっと明るくなった。
「次は、テーブル!」
傷だらけの木材を組み合わせると、艶やかに磨かれた立派なテーブルに生まれ変わる。護衛のおじさんが「こりゃ職人顔負けだな」と感心する。
「じゃあ椅子も……!」
折れていた脚を組み直し、座面を柔らかい布で覆う。
瞬く間に上品なダイニングチェアが完成した。
兄たちが座って「座り心地最高!」と笑う。
「最後は……タンス!」
倉庫で眠っていた壊れたタンスを引き出し、心の中でイメージを膨らませる。
丈夫で、引き出しが滑らかに動き、細工の美しい取っ手がついたタンスに。
光が収まると、目の前には新しいタンスが立っていた。
木目の美しさに母が思わず手を伸ばし、「こんな綺麗な細工、買ったときより価値が上がっているわね」と笑った。
◇◇◇
「これなら王都でも高く売れるね!」
兄たちがタンスの引き出しを開け閉めしながら感嘆の声をあげる。私は帽子をかぶり直して、カウンターの奥から大きく頷いた。
「よし!これからは大きなものにも挑戦して、もっともっとすごいお店にしよう!」
新しくなったお店に、家族と未来への夢を乗せて。今日も私は、等価交換の魔法を広げていく。
ネセレ、5歳。大きくなったお店と新しい帽子で、さらに大きな挑戦を始めた春の出来事である。