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第19話:初めての本物の宝石と王冠づくり

夏の陽射しがきらめく日、屋敷に王都からの使者がやってきた。


兄たちと一緒に玄関先に立つと、豪奢な馬車から降りてきたのは――なんと王女様ご本人だった。


「ネセレちゃん、お願いがあるの。」


王女様は少し緊張した様子で私の手を握った。


「お父様へのプレゼントに、特別な王冠を作ってほしいの。」


「王冠……!」 胸が高鳴る。


これまで作ったことのないもの。


でも、細かな細工は得意だ。


イメージさえできれば、きっと作れるはずだ。


「材料は私が用意するわ。」


そう言って王女様が開いた箱の中には、見たことのないほど輝く宝石や、やわらかな光を放つ金の塊が並んでいた。


「わぁ……これが……本物の宝石と金……!」


兄たちも息をのんで見つめ、母はそっと私の肩を抱いた。


「ネセレ、がんばってね。」


◇◇◇


作業台に宝石と金を並べ、私は深呼吸をした。


まずは王冠の形を思い描く。


王さまが頭にのせたとき、堂々として見えるように。


それでいて重すぎず、長く身につけられるものを――


「等価交換……特別な王冠に!」


金の塊がゆっくりと光を帯び、繊細な枝のような装飾に変わっていく。


そこに宝石をひとつひとつ配置し、光を散らすように組み込む。


細かな細工は私の得意分野だ。


時間を忘れ、ひとつひとつ丁寧に仕上げていく。


やがて光が収まり、作業台の上には世界にひとつだけの王冠が現れた。


黄金の台座に鮮やかな宝石がちりばめられ、光を受けて虹色の輝きを放っている。


「……できた……!」


兄たちは目を丸くし、母は「まぁ……なんて美しいの」とつぶやいた。


護衛のおじさんは腕を組んで「これならどこへ出しても恥ずかしくねぇな」と誇らしげだ。


王女様が両手でそっと王冠を受け取った。


その瞳が喜びに揺れる。


「ありがとう、ネセレちゃん。きっとお父様も喜ぶわ!」


私は少し照れながらも笑顔で頷いた。


「こちらこそ、作らせてくれてありがとう!」


◇◇◇


初めて触れた本物の宝石と金。


その重みと輝きが、私の胸に新しい夢を灯した。


「いつか……お店にも並べたいね。」


カウンターの奥から、私は王女様の背中を見送りながら、小さく呟いた。


等価交換の力で、もっと素敵なものを――そう、未来の私へと誓うように。


ネセレ、5歳。初めての本物の宝石と金で、王さまへの特別な王冠を作った夏の出来事である。

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