夏の陽射しがきらめく日、屋敷に王都からの使者がやってきた。
兄たちと一緒に玄関先に立つと、豪奢な馬車から降りてきたのは――なんと王女様ご本人だった。
「ネセレちゃん、お願いがあるの。」
王女様は少し緊張した様子で私の手を握った。
「お父様へのプレゼントに、特別な王冠を作ってほしいの。」
「王冠……!」 胸が高鳴る。
これまで作ったことのないもの。
でも、細かな細工は得意だ。
イメージさえできれば、きっと作れるはずだ。
「材料は私が用意するわ。」
そう言って王女様が開いた箱の中には、見たことのないほど輝く宝石や、やわらかな光を放つ金の塊が並んでいた。
「わぁ……これが……本物の宝石と金……!」
兄たちも息をのんで見つめ、母はそっと私の肩を抱いた。
「ネセレ、がんばってね。」
◇◇◇
作業台に宝石と金を並べ、私は深呼吸をした。
まずは王冠の形を思い描く。
王さまが頭にのせたとき、堂々として見えるように。
それでいて重すぎず、長く身につけられるものを――
「等価交換……特別な王冠に!」
金の塊がゆっくりと光を帯び、繊細な枝のような装飾に変わっていく。
そこに宝石をひとつひとつ配置し、光を散らすように組み込む。
細かな細工は私の得意分野だ。
時間を忘れ、ひとつひとつ丁寧に仕上げていく。
やがて光が収まり、作業台の上には世界にひとつだけの王冠が現れた。
黄金の台座に鮮やかな宝石がちりばめられ、光を受けて虹色の輝きを放っている。
「……できた……!」
兄たちは目を丸くし、母は「まぁ……なんて美しいの」とつぶやいた。
護衛のおじさんは腕を組んで「これならどこへ出しても恥ずかしくねぇな」と誇らしげだ。
王女様が両手でそっと王冠を受け取った。
その瞳が喜びに揺れる。
「ありがとう、ネセレちゃん。きっとお父様も喜ぶわ!」
私は少し照れながらも笑顔で頷いた。
「こちらこそ、作らせてくれてありがとう!」
◇◇◇
初めて触れた本物の宝石と金。
その重みと輝きが、私の胸に新しい夢を灯した。
「いつか……お店にも並べたいね。」
カウンターの奥から、私は王女様の背中を見送りながら、小さく呟いた。
等価交換の力で、もっと素敵なものを――そう、未来の私へと誓うように。
ネセレ、5歳。初めての本物の宝石と金で、王さまへの特別な王冠を作った夏の出来事である。