夏の終わり、突然の台風が村を襲った。
強い風と激しい雨のあと、みんなが困った顔で集まったのは川のほとりだった。
「橋が……橋が流されちまった!」
「この橋がないと王都への道が途絶えちまう……!」
その橋は、物資を運んだりお客さんが来るときに必ず通る、大事な生命線だった。
兄たちも心配そうに川を見下ろし、護衛のおじさんは腕を組んで黙っている。
「……じゃあ、もっと丈夫な橋を作ろう!」
私がそう言うと、みんなの顔がぱっと明るくなった。
◇◇◇
父の指揮のもと、村中の人たちが総出で石を運びはじめた。
重い石をえっこらえっこらと運んでくるおじさんたち。
兄たちも汗だくになって小さな石を集め、私もその横で小さな手で石を抱えた。
「これだけあれば足りるかな?」
「まだまだいるぞ!がんばれ!」
数日かけて、川のほとりには山のような石が積まれた。
村の人たちは疲れていたけれど、その瞳には期待の光が宿っている。
◇◇◇
私はその山を前に、深呼吸をした。
想像するのは、風にも雨にも負けない丈夫な石橋。
人々が安心して渡れるだけでなく、見た人が思わず感嘆するような美しい橋。
「等価交換……荘厳な橋に!」
光が石の山を包み、空気が震えた。次の瞬間、そこに現れたのは大きな石のアーチ橋。
重厚な石組みは川をまたぎ、両岸をしっかりと結んでいる。
欄干には細やかな模様が刻まれ、まるで王都の大通りにあるような荘厳さだ。
「すごい……!」
「これなら何があっても壊れないぞ!」
兄たちが橋を駆け渡り、護衛のおじさんが欄干を叩いて頷く。
「こいつはいい橋だ。これで安心だな!」
「……あれ? 門がついてる?」
橋の両端には、立派な石造りの門がそびえ立っていた。
彫刻された獅子が見守るように鎮座している。
私は小さく笑って肩をすくめた。
「えへへ……サービスです!」
村の人たちは笑いながら拍手をしてくれた。
父はその場で私を抱き上げ、「これで王都への道は守られたな!」と誇らしげに言った。
◇◇◇
ネセレ、5歳。みんなの力と等価交換で生まれた荘厳な橋が、村と未来を繋いだ初秋の出来事である。