秋も深まり、王都でのお仕事がひと段落したある日のこと。
昼下がりの陽射しが差し込む部屋で、私はいつものようにお昼寝の時間を迎えていた。
「なんだか最近……このベッド、ふかふか感が足りないなぁ……。」
小さな身体を寝返りさせながら、私は考え込んだ。
もっとこう、包み込まれるようなやわらかさがほしい。前世の記憶が、ふっと頭をよぎる。
「……あれだ、人をダメにするクッション……!」
◇◇◇
私は倉庫に向かい、柔らかい布や中綿、古い座布団などを集めてくる。兄たちが不思議そうに首をかしげた。
「ネセレ、なに作るの?」
「ふかふかで……もう起き上がれないくらい気持ちいいベッド!」
「……またすごいのを思いついたな。」
護衛のおじさんが苦笑する。
作業台の上に布を広げ、中綿やビーズ状の小さな素材をイメージしながら両手をかざす。
「等価交換……人をダメにするベッドに!」
光が走り、目の前に現れたのは巨大なビーズクッション。
ふっくらと膨らんだ生地は触れるだけで沈み込み、身体を優しく包み込む。
「わぁぁぁ……!」兄たちが一斉に飛び込み、ふかふかに埋もれる。
「なにこれ!出られない!」
「気持ちいい……!」
私もそっと横になってみると、柔らかさに身体が溶けるようだった。
「……もう、お昼寝から起きられないかも。」
◇◇◇
新しいベッドの噂は瞬く間に広がった。
お店に並べると、村の人や王都からのお客さんが次々と買い求める。
「腰が痛くなくなったわ!」
「子どもがずっと寝てくれる!」
そしてある日、旅人が興奮した様子で教えてくれた。
「聞いたか?隣国の皇帝様が、このベッドをお使いになっているらしいぞ!」
「えっ、ほんと?」
「不眠症でお困りだったそうだが、これを使ったらぐっすり眠れるようになったとか!」
私は思わず笑顔になった。前世の知識が、遠い国の誰かの眠りを救っているなんて。
「これからも、もっといいものを作っていこう!」
ネセレ、5歳。お昼寝から生まれた人をダメにするベッドが、隣国まで眠りの魔法を届けた初冬の出来事である。