夏の朝、店の奥で父がにこにこと笑っている。
兄たちがざわざわと集まり、その手の中をのぞき込んでいた。
「ネセレ、ついに手に入れたぞ。これが……本物の金と宝石だ。」
父がテーブルに広げたのは、柔らかく光る金の塊と、赤や青にきらめく宝石の数々。
私の胸は高鳴り、指先がそっと伸びる。
「……これで、前から作りたかったものが作れる!」
◇◇◇
作業台に金と宝石を並べ、私は深呼吸をした。
心の中でイメージを広げる。
母がいつも胸元につけている古いコサージュを思い出す。
もっと繊細で、もっと美しく……社交界でも誇れるような宝飾を。
「等価交換……母への特別なブローチに!」
光がふわりと舞い、やがて現れたのは、花をかたどった繊細なブローチだった。
花びら一枚一枚が宝石で彩られ、茎や葉脈まで金で丁寧に彫られている。
光を受けて七色にきらめき、息を呑むほどの美しさだ。
「……できた……!」
◇◇◇
私は母にそっとブローチを手渡した。
「いつもありがとう。これ、母さまに。」
母は驚いた顔でブローチを見つめ、やがて優しく微笑んだ。
「まぁ……こんなに素敵なものを……ありがとう、ネセレ。」
胸元につけた瞬間、宝石の花がきらりと光を放つ。
兄たちが「すごい!」「お母さん、すっごく似合ってる!」と歓声をあげ、父は誇らしげに頷いた。
◇◇◇
その日を境に、社交界で「辺境伯家の娘が作った不思議な宝飾」が話題になったという。特に母がつけていたそのブローチは評判となり、次々にオーダーメイドの注文が舞い込んでくる。
「このデザインで、私にも作ってほしいの!」
「私のドレスに合う色の宝石でお願い!」
カウンターの奥で私はにっこり笑い、作業台の宝石を手に取った。
新しい挑戦がまた始まる予感が胸を躍らせる。
ネセレ、5歳。初めての宝石と金で作った母へのブローチが、社交界を華やがせた夏の出来事である。