目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第27話:母への初めてのブローチ

夏の朝、店の奥で父がにこにこと笑っている。


兄たちがざわざわと集まり、その手の中をのぞき込んでいた。


「ネセレ、ついに手に入れたぞ。これが……本物の金と宝石だ。」


父がテーブルに広げたのは、柔らかく光る金の塊と、赤や青にきらめく宝石の数々。


私の胸は高鳴り、指先がそっと伸びる。


「……これで、前から作りたかったものが作れる!」


◇◇◇


作業台に金と宝石を並べ、私は深呼吸をした。


心の中でイメージを広げる。


母がいつも胸元につけている古いコサージュを思い出す。


もっと繊細で、もっと美しく……社交界でも誇れるような宝飾を。


「等価交換……母への特別なブローチに!」


光がふわりと舞い、やがて現れたのは、花をかたどった繊細なブローチだった。


花びら一枚一枚が宝石で彩られ、茎や葉脈まで金で丁寧に彫られている。


光を受けて七色にきらめき、息を呑むほどの美しさだ。


「……できた……!」


◇◇◇


私は母にそっとブローチを手渡した。


「いつもありがとう。これ、母さまに。」


母は驚いた顔でブローチを見つめ、やがて優しく微笑んだ。


「まぁ……こんなに素敵なものを……ありがとう、ネセレ。」


胸元につけた瞬間、宝石の花がきらりと光を放つ。


兄たちが「すごい!」「お母さん、すっごく似合ってる!」と歓声をあげ、父は誇らしげに頷いた。


◇◇◇


その日を境に、社交界で「辺境伯家の娘が作った不思議な宝飾」が話題になったという。特に母がつけていたそのブローチは評判となり、次々にオーダーメイドの注文が舞い込んでくる。


「このデザインで、私にも作ってほしいの!」


「私のドレスに合う色の宝石でお願い!」


カウンターの奥で私はにっこり笑い、作業台の宝石を手に取った。


新しい挑戦がまた始まる予感が胸を躍らせる。


ネセレ、5歳。初めての宝石と金で作った母へのブローチが、社交界を華やがせた夏の出来事である。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?