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第29話:恋を叶えるシルバーリング

ある日の午後、店に一人の若い青年がやってきた。


頬を赤くして、帽子をいじりながらも、どこか元気がない。


「……どうしたの?」と兄が尋ねると、青年は苦笑しながら話し始めた。


「実は……好きな人に告白しようとしたんです。でも、いざ言おうとしたとき、足がもつれてこけちゃって……笑われちゃいました。」


「壊れちゃったのは僕の心です……。」


なんて切ない顔。


私は思わず「可哀想に……」とつぶやいた。


兄たちは肩を組んで「次こそはうまくやろうぜ!」と励ます。


「告白には指輪だよ!」


「そうだそうだ!指輪を贈れば気持ちも伝わる!」


「……まだ早くない?」と私が言うと、兄たちはにやにや笑って「恋に早いも遅いもないんだ!」とノリノリだ。


青年は少し戸惑いながらも、小さく頷いた。


「……お願いします。指輪をください。」


◇◇◇


私は作業台に座り、手元の銀の素材を見つめる。


彼の気持ちが、ちゃんと伝わりますように。


心の中で願いをこめて、両手をかざした。


「等価交換……シルバーリングに!」


光が走り、銀が繊細な輝きを放つ指輪に生まれ変わる。


小さな宝石を中央にあしらい、優しい曲線で包むように仕上げた。


「これなら……きっと大丈夫。」


◇◇◇


数日後、青年が再びお店にやってきた。


顔がぱっと明るく、目を輝かせている。


「……うまくいきました!彼女、喜んでくれました!」


私は胸をなでおろし、兄たちと一緒に手をたたいた。


「よかったね!」


その日を境に、「異界の錬金釜のアクセサリーは恋愛成就にいいらしい」という噂が村から王都まで広がっていった。


「私にも作って!」「あたしも!」と若者たちが次々に訪れ、カウンターには笑顔があふれた。


◇◇◇


ネセレ、5歳。心をこめて作ったシルバーリングが、ひとつの恋を叶え、恋する人々の希望となった秋の出来事である。

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