ある日の午後、店に一人の若い青年がやってきた。
頬を赤くして、帽子をいじりながらも、どこか元気がない。
「……どうしたの?」と兄が尋ねると、青年は苦笑しながら話し始めた。
「実は……好きな人に告白しようとしたんです。でも、いざ言おうとしたとき、足がもつれてこけちゃって……笑われちゃいました。」
「壊れちゃったのは僕の心です……。」
なんて切ない顔。
私は思わず「可哀想に……」とつぶやいた。
兄たちは肩を組んで「次こそはうまくやろうぜ!」と励ます。
「告白には指輪だよ!」
「そうだそうだ!指輪を贈れば気持ちも伝わる!」
「……まだ早くない?」と私が言うと、兄たちはにやにや笑って「恋に早いも遅いもないんだ!」とノリノリだ。
青年は少し戸惑いながらも、小さく頷いた。
「……お願いします。指輪をください。」
◇◇◇
私は作業台に座り、手元の銀の素材を見つめる。
彼の気持ちが、ちゃんと伝わりますように。
心の中で願いをこめて、両手をかざした。
「等価交換……シルバーリングに!」
光が走り、銀が繊細な輝きを放つ指輪に生まれ変わる。
小さな宝石を中央にあしらい、優しい曲線で包むように仕上げた。
「これなら……きっと大丈夫。」
◇◇◇
数日後、青年が再びお店にやってきた。
顔がぱっと明るく、目を輝かせている。
「……うまくいきました!彼女、喜んでくれました!」
私は胸をなでおろし、兄たちと一緒に手をたたいた。
「よかったね!」
その日を境に、「異界の錬金釜のアクセサリーは恋愛成就にいいらしい」という噂が村から王都まで広がっていった。
「私にも作って!」「あたしも!」と若者たちが次々に訪れ、カウンターには笑顔があふれた。
◇◇◇
ネセレ、5歳。心をこめて作ったシルバーリングが、ひとつの恋を叶え、恋する人々の希望となった秋の出来事である。