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第31話:妖精さんたちのちっちゃなドレス

ある春の日の夕暮れ、店先で兄たちと商品を並べていると、どこからともなくひそひそと小さな声が聞こえてきた。


「……ねぇ、ここが『異界の錬金釜』?」


「うん、ここならきっと直してくれるって……!」


私は耳を澄ませて辺りを見回した。すると、花壇の影からちいさな羽がちらりと見えた。


目を凝らすと、そこには手のひらよりも小さな妖精さんたちが、ちょこんと並んで立っていた。


「わぁ……!」


「こんばんは、妖精さんたち!」と私が声をかけると、彼女たちは恥ずかしそうに頭を下げた。


「私たちのお花のドレスが破れちゃって……。」


「キノコのテーブルも脚が折れちゃって……。」


彼女たちが差し出したのは、花びらでできた小さなドレスや、キノコの傘を使った小さなテーブル。


どちらも傷んでいて、ちょっと悲しげな様子だ。


「大丈夫、私に任せて!」


◇◇◇


私は作業台にその小さなドレスを並べ、両手をそっとかざす。


今度は特別に、小さな世界にぴったりのものをイメージする。


「等価交換……妖精さん用の可愛いドレスに!」


光が花びらを包み、きらきらとした光の中から現れたのは、ふわふわの小さなドレス。繊細な刺繍と宝石のようなビーズが散りばめられていて、妖精さんたちが目を輝かせる。


「かわいい……!」


「ぴったり!」


次はキノコのテーブル。割れた脚を手に取り、イメージを重ねる。


「等価交換……丈夫で可愛いテーブルに!」


光が走り、キノコの脚はつややかに再生し、テーブルの天板には小さなアクセサリーを飾るスペースまでついていた。


◇◇◇


「わぁ……まるで着せ替え人形みたい!」


妖精さんたちは新しいドレスに着替え、くるくると舞いながら笑っている。


頭には小さな冠のようなアクセサリーもつけてあげた。


「これなら、もうすぐにでもお祭りに出られるわ!」


「ありがとう、ネセレちゃん!」


兄たちは「妖精さんたちって、本当にいるんだな……」と目を丸くし、護衛のおじさんは「ちっちゃいお客さんも大歓迎だな」と笑った。


◇◇◇


ネセレ、5歳。妖精さんたちのために作った小さなドレスやテーブルが、またひとつの世界を笑顔にした春の出来事である。

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