ある春の日の夕暮れ、店先で兄たちと商品を並べていると、どこからともなくひそひそと小さな声が聞こえてきた。
「……ねぇ、ここが『異界の錬金釜』?」
「うん、ここならきっと直してくれるって……!」
私は耳を澄ませて辺りを見回した。すると、花壇の影からちいさな羽がちらりと見えた。
目を凝らすと、そこには手のひらよりも小さな妖精さんたちが、ちょこんと並んで立っていた。
「わぁ……!」
「こんばんは、妖精さんたち!」と私が声をかけると、彼女たちは恥ずかしそうに頭を下げた。
「私たちのお花のドレスが破れちゃって……。」
「キノコのテーブルも脚が折れちゃって……。」
彼女たちが差し出したのは、花びらでできた小さなドレスや、キノコの傘を使った小さなテーブル。
どちらも傷んでいて、ちょっと悲しげな様子だ。
「大丈夫、私に任せて!」
◇◇◇
私は作業台にその小さなドレスを並べ、両手をそっとかざす。
今度は特別に、小さな世界にぴったりのものをイメージする。
「等価交換……妖精さん用の可愛いドレスに!」
光が花びらを包み、きらきらとした光の中から現れたのは、ふわふわの小さなドレス。繊細な刺繍と宝石のようなビーズが散りばめられていて、妖精さんたちが目を輝かせる。
「かわいい……!」
「ぴったり!」
次はキノコのテーブル。割れた脚を手に取り、イメージを重ねる。
「等価交換……丈夫で可愛いテーブルに!」
光が走り、キノコの脚はつややかに再生し、テーブルの天板には小さなアクセサリーを飾るスペースまでついていた。
◇◇◇
「わぁ……まるで着せ替え人形みたい!」
妖精さんたちは新しいドレスに着替え、くるくると舞いながら笑っている。
頭には小さな冠のようなアクセサリーもつけてあげた。
「これなら、もうすぐにでもお祭りに出られるわ!」
「ありがとう、ネセレちゃん!」
兄たちは「妖精さんたちって、本当にいるんだな……」と目を丸くし、護衛のおじさんは「ちっちゃいお客さんも大歓迎だな」と笑った。
◇◇◇
ネセレ、5歳。妖精さんたちのために作った小さなドレスやテーブルが、またひとつの世界を笑顔にした春の出来事である。