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第36話:学生さんたちの教科書リサイクル

春の空気がやわらかく、通りを新しい制服の学生さんたちが歩いていく。


お店の前にも、いつもと違うお客さんが次々と現れた。


「こんにちは!」


「ここが異界の錬金釜ですか?」


カウンターの前に積まれたのは、分厚い教科書や教材、使い終わったノートや練習用の道具たちだった。兄たちが目を丸くする。


「すごい量だな……!」


「これは……学校のもの?」


「ええ、もう卒業したのでいらないんです。」と、ひとりの学生さんが言う。


「でも、これってまだ使えるよね?」


私は頷き、にっこり笑った。


「もちろん!等価交換しなくても、ちゃんと役に立つから。」


◇◇◇


いつもの作業台を出す代わりに、兄たちと一緒に教科書を仕分けしていく。


数学、歴史、魔法学、錬金術基礎……どれもきれいで、まだまだ使える。


「これなら、後輩になる子たちが喜ぶね!」


「安く提供してあげよう!」


兄たちは価格を相談しながら札をつけ、母は布で拭いて丁寧に並べてくれた。


護衛のおじさんは「俺は本は読まねぇけど、いい心がけだな」と笑った。


◇◇◇


その日の午後、今度は入学を控えた若者たちがやってきた。


「これ……新しい教科書よりずっと安い!」


「助かります……!」


私たちは一冊ずつ手渡しながら「がんばってね!」と声をかけた。


教科書を胸に抱えた若者たちは、みんな明るい顔で帰っていく。


「ありがとう、ネセレさん!」


「いい勉強をするんだよ!」


お店の前に春風が吹き、桜の花びらが舞い込んだ。


私はカウンターの奥からその光景を見つめ、静かに微笑む。


「……等価交換を使わなくても、人を助けられるんだね。」


ネセレ、6歳。学生さんたちから教科書を引き取り、未来の学び手たちへとつなげた春の出来事である。

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