春の空気がやわらかく、通りを新しい制服の学生さんたちが歩いていく。
お店の前にも、いつもと違うお客さんが次々と現れた。
「こんにちは!」
「ここが異界の錬金釜ですか?」
カウンターの前に積まれたのは、分厚い教科書や教材、使い終わったノートや練習用の道具たちだった。兄たちが目を丸くする。
「すごい量だな……!」
「これは……学校のもの?」
「ええ、もう卒業したのでいらないんです。」と、ひとりの学生さんが言う。
「でも、これってまだ使えるよね?」
私は頷き、にっこり笑った。
「もちろん!等価交換しなくても、ちゃんと役に立つから。」
◇◇◇
いつもの作業台を出す代わりに、兄たちと一緒に教科書を仕分けしていく。
数学、歴史、魔法学、錬金術基礎……どれもきれいで、まだまだ使える。
「これなら、後輩になる子たちが喜ぶね!」
「安く提供してあげよう!」
兄たちは価格を相談しながら札をつけ、母は布で拭いて丁寧に並べてくれた。
護衛のおじさんは「俺は本は読まねぇけど、いい心がけだな」と笑った。
◇◇◇
その日の午後、今度は入学を控えた若者たちがやってきた。
「これ……新しい教科書よりずっと安い!」
「助かります……!」
私たちは一冊ずつ手渡しながら「がんばってね!」と声をかけた。
教科書を胸に抱えた若者たちは、みんな明るい顔で帰っていく。
「ありがとう、ネセレさん!」
「いい勉強をするんだよ!」
お店の前に春風が吹き、桜の花びらが舞い込んだ。
私はカウンターの奥からその光景を見つめ、静かに微笑む。
「……等価交換を使わなくても、人を助けられるんだね。」
ネセレ、6歳。学生さんたちから教科書を引き取り、未来の学び手たちへとつなげた春の出来事である。