その日、ユンの
かつこの国最高峰の芸術が集う場所、王都の中央美術館でついに公開された。
異世界に転生してからの旅路・・・・・・ユンが出会ってきた数々の画家たち、思想、色彩、形。すべてがこの一枚に注ぎ込まれていた。
写実ではない。幻想的でありながらも、あくまで人の〈生〉の気配が宿っている。
大地を割って咲く百の花々。上空には、キャンバスのはるか向こうから射す光。
その光の中に、歩く少女の影があった。後ろ姿だけが描かれ、顔は見えない。
けれど人々は、誰の姿かを一目で理解した。
・・・・・・これは、彼女自身の肖像なのだ。
後に彼女は語る……
「旅で知ったことは一つだけ。
芸術は決して答えじゃない。
それは問いかけ続ける勇気だ。」
「……なぁ、ユン」
ナイルが展示室のバルコニーで、一瞬言葉を選ぶように間を置いてから口を開いた。
「お前が“終わりの庭”って名付けたから、てっきり、旅も終わりにしたいって意味かと思った。でも違うんだな」
「うん。終わるって、ただ終わるんじゃないんだと思う。
誰かのなかで“続く”ために、ちゃんと、咲かせて終わらせたかった」
「そういうとこ、ずるいくらい綺麗だよな」
ナイルは照れ隠しのように笑って、後ろから花束を差し出した。
「……本当は、今日のために用意してた。あんまり綺麗に渡せないけど」
ユンは驚いたように目を見開いて、そして柔らかく笑った。
「ありがとう!すごく、すごく嬉しい!!」
彼女がそっと手を伸ばすと、ナイルは少し顔を赤らめながら渡した。
一方そのころ、展示室の一角では——
「あなたの絵は、ほんとうに変わった」
ミレイユが言った。
ヴァロワの
「変わったのは……絵じゃない。僕の目線のほうさ」
ヴァロワがまっすぐにミレイユを見る。
「僕は、ずっと『描かれるもの』を信じすぎてた。けれど今は、『見る人』の目線のほうが……信じられる気がする」
「ふふ。難しくてわからないけど、あなたが私を見てくれてるってことだけは、わかる」
ミレイユがそう言って、風に揺れる髪をそっと押さえた。
その夜、展示会場を離れたユンたちは、王都の丘の上にある塔のてっぺんにいた。
「明日から、どうする?」
ナイルが尋ねると、ユンは少しだけ遠くの灯を見つめる。
「また描くよ。今度は、誰のためでもない、私の絵を」
その言葉に、ヴァロワも頷いた。
光はまだ遠く、けれど確かに、彼女たちの上に降りそそいでいた。
——物語は、次のページへ。