車のボディに反射する光が眩しい。
ジョージは無言でサングラスをかけた。
助手席に置いた紙袋から、バナナを1本取り出す。
皮をむき、静かにバナナを齧った。
咀嚼音さえ、空間に溶けていく。
食事というより、ただの燃料補給。
味も食感も、特に意識はしていない。
ただ――空腹は、判断力を鈍らせる。
それだけの理由で、腹に入れていた。
スマホをちらと確認する。
ヴィンセントからの返信はまだない。
まだ調査中か、それとも……面倒な何かに巻き込まれているか。
もう一口、バナナを食べながら、ナンシーの家の防犯対策を頭の中で整理する。
・窓の鍵は標準的なもの → 補助ロックとブザーを追加
・玄関の施錠が甘い → 補助錠とストッパーを設置
・センサーカメラのみで監視カメラなし → 本物とダミーを設置
・駐車場が死角になっている → センサーライトを追加
最後の一口を飲み込み、皮をたたんでゴミ袋に押し込む。
サングラスのブリッジ越しに正面を見据え、ギアを入れた。
行き先は決まっていた。
ホームセンターの広大な駐車場に車を停め、ジョージは店内へと入った。
コンクリートの床に響くカートの音。
工具がぶつかる金属音が微かに耳に届く。
DIY用品が整然と並ぶ売り場を、必要なものを考えながら回る。
・補助錠(ドア用) → 玄関の防犯強化
・ 窓用ロック → 開閉式の補助鍵
・防犯ブザー → 窓やドアに振動が加わると警報を鳴らす
・センサーライト → 駐車場と裏庭の照明強化
・監視カメラ(ダミー含む) → 威圧効果を狙う
・結束バンド・金具類 → 配線の固定用
売り場には、地元の職人風の男やDIY好きの客がちらほら。
ジョージは特に気にすることなく、必要なものを次々とカートに入れていく。
レジに向かうと、店員が笑顔で声をかけた。
「取り付けサービスもありますよ?」
「自分でやる」
無駄な会話を省き、支払いを済ませる。
カートを押して駐車場へ向かう。
荷台に商品を積み込み、後部座席に工具類を固定する。
エンジンをかけると、低い振動が指先に伝わった。
ナンシーの家へ向かう前に、ジョージは一瞬だけ考えた。
(本当にここを要塞化する必要があるのか)
相手の正体が分かっていない以上、派手な動きは避けるべきだ。
今は、静かに準備を進める時だ。
ギアを入れ、リッジラインを発進させた。
住宅街に入り、ナンシーの家の前にリッジラインを停める。
エンジンを切り、しばらく車内から周囲を観察した。
特に変わった様子はない。
近所の住人が庭の手入れをし、犬の散歩をする老夫婦の姿があった。
ジョージは荷台から工具と防犯用品を降ろし、玄関の鍵を開ける。
室内は静かだった。
ナンシーも、子供たちもいない。
このまま黙々と作業を進めるには、ちょうどいい状況だった。
① 玄関の補強
まずは玄関のドアから取り掛かる。
シリンダーキーだけでは心許ない。
→補助錠の取り付け
電動ドリルを取り出し、ドアフレームに慎重に金具を固定する。
ネジが締まる音が、静まり返った室内に響いた。
→ドアストッパーの設置
内側からのみ作動するストッパーを追加し、強行突破の難易度を上げる。
扉を軽く押して確認する。
―― 「これで少しはマシか」
② 窓の防犯強化
次に、リビングと寝室の窓を補強する。
窓の鍵を確認し、開閉補助ロック を取り付ける。
さらに、振動検知式の防犯ブザー を設置。
不審者が窓を叩けば、即座に警報が鳴る。
試しに窓を軽く叩く。
甲高い警告音。
問題なく作動する。
③ 監視カメラ&センサーライト
リッジラインから梯子を取り出し、ガレージの外壁に立てかける。
監視カメラを、破壊されにくい高い位置に設置。
・玄関と裏庭に本物のカメラ
・駐車場と側面にダミーカメラ
本物と偽物を混ぜることで、侵入者に「どれが本物か分からない」状態を作る。
センサーライトも、ガレージと裏庭に取り付ける。
配線を固定し、角度を微調整。
―― 少しの動きでも自動で点灯するようになった。
だがこれはあくまで最低限の対策に過ぎない。所詮、時間稼ぎ。
ジョージは壁に頭をコツンとぶつけた。絡まった思考がほどけていく。
上着を手に取り、時間を見た。ジェシカの迎えまでまだ時間がある。
ジョージはナッツを口に放り込み、リッジラインのドアを開け、車に乗り込んだ。
ナッツを噛みながら視線を前に送る。
――この後、何が待つかなど知らずに。