「……で、俺の報酬は?」
ジョージは無言のままポケットからゴムで丸めた札束を取り出し、テーブルに放る。
「おっ、話が早いな。で、いくら入ってんだ?」
「必要な分だ。」
「出た、“自分の価値は自分で決めろ”スタイル。詩人かよ、お前」
チャットは笑った。
「だが、どうしても気になることがあるんだよねー」
ジョージは無言でチャットを見た。
チャットは足を組み、サングラス越しにジョージをじっと見つめる。
「お前、貧乏くさい暮らししてるクセに、総資産100万ドル超えてるって話……マジ?」
ジョージは表情を動かさなかった。
だが、わずかに視線をそらした瞬間、チャットは確信した。
「マジかよ……! いや、待て、どうせヴィンちゃんが勝手に運用してんだろ?
ってか、知ってんのかお前、自分の口座」
「……さぁな」
チャットは笑いながら、頭を軽くかいた。
「100万ドル持ってて、それかよ……
もはや逆に才能だな、金があっても人生つまんねぇを体現してる」
ジョージは、淡々と答えた。
「必要か?」
「はぁ?」
チャットは思わず声を上げた。
「いやいやいや、必要かとかじゃねぇんだよ。“あるなら回せ”が金の作法だろ。
オスカー・ワイルドって知ってる? 皮肉の達人よ。
“金を使えない金持ちはジョークだ”ってさ。……つまりお前だな、ジョージ」
チャットは笑いながらやれやれと頭を振り、続ける。
「お前の資産見たら、ワイルドも多分こう言うね。
“それは銀行口座じゃない、博物館だ”ってよ」
ジョージは静かにチャットを見つめる。
「無駄は出したくない」
「わかったわかった」
チャットは手を叩き、深く頷いた。
「お前は“カネは使わない方が賢い”とか思ってる、優等生こじらせた金持ちタイプな」
ジョージはわずかに眉をひそめたが、何も言わない。
チャットはニヤリと笑い、指を振る。
「でもな、金は使ってナンボ。
死ぬまで貯め込むのは、生きてる金を腐らせてるのと同じ」
ジョージは腕を組み、静かに聞いている。
チャットは続ける。
「金ってのはな、血液と同じだ。
回さなきゃ腐る、滞れば壊死。
いい人生送りたきゃ、ドクドク流せ」
ジョージは短く息を吐いた。
「……お前は、金を動かすことで何を得た?」
「あん?」
チャットは眉を上げ、それから肩をすくめた。
「俺? 得たもん?
女、酒、スイートルームの天井」
そして続けた。
「……あと、バカみたいに飲んだ次の日の、クソみたいな二日酔い。忘れんなよそれ」
ジョージは無表情のまま、それを聞いていた。
「……それは必要か?」
チャットは頭を抱え、笑いながら椅子に沈み込む。
「はぁぁ~~……ダメだこりゃ。お前とは一生、財布の会話が噛み合わねぇな」
ジョージは淡々としたまま、静かに言った。
「話を戻す。
クラブ潜入の金は出すが、無駄は出したくない。良い方法はあるか?」
チャットはため息をつき、札束を指で弾く。
「それなら、ギャンブルだな」
ジョージの眉がわずかに動いた。
「ギャンブルは無駄だ」
チャットは一瞬だけ驚いたように目を細め、それからニヤリと笑った。
「使う・目立つ・怪しまれないの3拍子そろった成金プレイの王道」
彼はグラスを傾け、言葉を続ける。
「だが今回は、金を増やすんじゃなくて――演じるのが仕事だ。
バカで目立つ金持ちって、実は一番計算されてんのよ」
ジョージは静かにチャットを見た。
チャットは指を一本立てる。
「考えてみ? 成金アピールで一番手っ取り早いの、何だと思う?」
ジョージは答えない。
チャットはニヤリと笑い、続ける。
「札ばら撒くパフォーマンスだよ。
ギャンブル以上に効くもんねぇ」
彼はテーブルに指を置き、リズムを刻むように軽く叩いた。
「1時間も遊べば、派手な成金の印象はバッチリ。
しかも金持ってる奴には、誰もあえて踏み込んでこねぇ。噛まれそうだからな。
うまくいけば結果的に他の方法より安く済むのよ。これが」
ジョージは少し考え、それでも否定するように言った。
「勝っても負けても、金が動く。」
チャットは笑い、肩をすくめた。
「負けても、余裕の笑顔で札出してりゃ、客もスタッフも“あの男、本物だ”って思い込む。
お前みたいな金に無関心な奴が一番リアルなんだよ」
「……つまり、カモを演じるのが目的か」
「その通り!
ギャンブルで勝とうとする奴は庶民。
ギャンブルで金使う奴は成金」
チャットは指を鳴らし、軽く笑う。
「ジョニー・ウーが堅実派だったら、話になんねぇっての。
損しても気にしない金持ちってのが、一番カモに見えるの。ウケるだろ?」
ジョージは短く息を吐いた。
「……納得した。」
チャットは満足げに頷く。
「おっ、納得した? お前もそろそろ、成金デビューの準備ができたみてぇだな。
顔はダメでも、財布で勝負だ、ジョニーさん」
ジョージは淡々と答えた。
「くだらん。」
チャットは笑いながら、カバンの中からトランプを取り出し、テーブルの上に置いた。
「よっしゃ、じゃあレッスン開始といこうか。
これはギャンブルじゃねぇ、成金の儀式だ」