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054:金は流せ、血液みたいにな


「……で、俺の報酬は?」


 ジョージは無言のままポケットからゴムで丸めた札束を取り出し、テーブルに放る。


「おっ、話が早いな。で、いくら入ってんだ?」

「必要な分だ。」

「出た、“自分の価値は自分で決めろ”スタイル。詩人かよ、お前」


 チャットは笑った。


「だが、どうしても気になることがあるんだよねー」


 ジョージは無言でチャットを見た。

 チャットは足を組み、サングラス越しにジョージをじっと見つめる。


「お前、貧乏くさい暮らししてるクセに、総資産100万ドル超えてるって話……マジ?」


 ジョージは表情を動かさなかった。

 だが、わずかに視線をそらした瞬間、チャットは確信した。


「マジかよ……! いや、待て、どうせヴィンちゃんが勝手に運用してんだろ?

 ってか、知ってんのかお前、自分の口座」

「……さぁな」


 チャットは笑いながら、頭を軽くかいた。


「100万ドル持ってて、それかよ……

 もはや逆に才能だな、金があっても人生つまんねぇを体現してる」


 ジョージは、淡々と答えた。


「必要か?」

「はぁ?」


 チャットは思わず声を上げた。


「いやいやいや、必要かとかじゃねぇんだよ。“あるなら回せ”が金の作法だろ。

 オスカー・ワイルドって知ってる? 皮肉の達人よ。

“金を使えない金持ちはジョークだ”ってさ。……つまりお前だな、ジョージ」


 チャットは笑いながらやれやれと頭を振り、続ける。


「お前の資産見たら、ワイルドも多分こう言うね。

“それは銀行口座じゃない、博物館だ”ってよ」


 ジョージは静かにチャットを見つめる。


「無駄は出したくない」

「わかったわかった」


 チャットは手を叩き、深く頷いた。


「お前は“カネは使わない方が賢い”とか思ってる、優等生こじらせた金持ちタイプな」


 ジョージはわずかに眉をひそめたが、何も言わない。

 チャットはニヤリと笑い、指を振る。


「でもな、金は使ってナンボ。

 死ぬまで貯め込むのは、生きてる金を腐らせてるのと同じ」


 ジョージは腕を組み、静かに聞いている。

 チャットは続ける。


「金ってのはな、血液と同じだ。

 回さなきゃ腐る、滞れば壊死。

 いい人生送りたきゃ、ドクドク流せ」


 ジョージは短く息を吐いた。


「……お前は、金を動かすことで何を得た?」

「あん?」


 チャットは眉を上げ、それから肩をすくめた。


「俺? 得たもん?

 女、酒、スイートルームの天井」


 そして続けた。


「……あと、バカみたいに飲んだ次の日の、クソみたいな二日酔い。忘れんなよそれ」


 ジョージは無表情のまま、それを聞いていた。


「……それは必要か?」


 チャットは頭を抱え、笑いながら椅子に沈み込む。


「はぁぁ~~……ダメだこりゃ。お前とは一生、財布の会話が噛み合わねぇな」


 ジョージは淡々としたまま、静かに言った。


「話を戻す。

 クラブ潜入の金は出すが、無駄は出したくない。良い方法はあるか?」


 チャットはため息をつき、札束を指で弾く。


「それなら、ギャンブルだな」


 ジョージの眉がわずかに動いた。


「ギャンブルは無駄だ」


 チャットは一瞬だけ驚いたように目を細め、それからニヤリと笑った。


「使う・目立つ・怪しまれないの3拍子そろった成金プレイの王道」


 彼はグラスを傾け、言葉を続ける。


「だが今回は、金を増やすんじゃなくて――演じるのが仕事だ。

 バカで目立つ金持ちって、実は一番計算されてんのよ」


 ジョージは静かにチャットを見た。

 チャットは指を一本立てる。


「考えてみ?  成金アピールで一番手っ取り早いの、何だと思う?」


 ジョージは答えない。

 チャットはニヤリと笑い、続ける。


「札ばら撒くパフォーマンスだよ。

 ギャンブル以上に効くもんねぇ」


 彼はテーブルに指を置き、リズムを刻むように軽く叩いた。


「1時間も遊べば、派手な成金の印象はバッチリ。

 しかも金持ってる奴には、誰もあえて踏み込んでこねぇ。噛まれそうだからな。

 うまくいけば結果的に他の方法より安く済むのよ。これが」


 ジョージは少し考え、それでも否定するように言った。


「勝っても負けても、金が動く。」


 チャットは笑い、肩をすくめた。


「負けても、余裕の笑顔で札出してりゃ、客もスタッフも“あの男、本物だ”って思い込む。

 お前みたいな金に無関心な奴が一番リアルなんだよ」

「……つまり、カモを演じるのが目的か」

「その通り! 

 ギャンブルで勝とうとする奴は庶民。

 ギャンブルで金使う奴は成金」


 チャットは指を鳴らし、軽く笑う。


「ジョニー・ウーが堅実派だったら、話になんねぇっての。

 損しても気にしない金持ちってのが、一番カモに見えるの。ウケるだろ?」


 ジョージは短く息を吐いた。


「……納得した。」


 チャットは満足げに頷く。


「おっ、納得した? お前もそろそろ、成金デビューの準備ができたみてぇだな。

 顔はダメでも、財布で勝負だ、ジョニーさん」


 ジョージは淡々と答えた。


「くだらん。」


 チャットは笑いながら、カバンの中からトランプを取り出し、テーブルの上に置いた。


「よっしゃ、じゃあレッスン開始といこうか。

 これはギャンブルじゃねぇ、成金の儀式だ」


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