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第4話 病の正体


 薬の効果は覿面だった。青ざめていたセラの顔色はほんのり赤く血色を帯び、苦しそうだった顔も穏やかになる。家族達は驚きと喜びを顕にした。


「セラ、具合はどう?」

「おかあさん、ちょっと楽になったよ」

「まぁよかったわ! 本当に……薬師様ありがとうございます!」

「いや、まだ病を癒したわけではないんだが……」


 すがり付かれ困り顔のシュネールナはカーラを引き剥がしながらそう断りをいれた。


「どんな薬を飲ませたのですか?」

「“とりあえず元気になる薬“」

「えっと……それはどういった……」


 テディの疑問にやや煩わしげにシュネールナは言葉を返した。


「だから“とりあえず元気になる薬“だよ。体力回復、鎮痛、リラックス効果、その他諸々。さしあたっての不調をなんとかする薬だ。光魔法の回復みたいなモノだと思いたまえ……見たところ奥さんも看病疲れが顔に出ている。飲んでみるといい」


 シュネールナは新しいスプーンを取り出すと緑の薬……とりあえず元気になる薬をカーラに差し出した。


「う、本当に苦い」

「味変えは子供限定サービスだ、我慢したまえ」

「でも……ふわぁ……なんだかぽかぽかして体のダルさが和らいだ気がします」

「気に入ったなら後で小瓶に分けてあげよう」

「え、こんなによく効く薬なのに。高いんじゃないですか?」

「このくらいでお金なんてとらないよ。作り置きは沢山あるからね。サービスだ」


「なにはともあれまずはお嬢さんからだ……いっとくがこっちはキッチリお代をいただくよ」とシュネールナはセラに向き直った。


「さ、セラ。体は起こせるかい?」

「うん」

「よし。体の痣を見たいんだが、どのへんにあるんだい?」

「ここ」


 セラが服をまくって見せるとおなかから背中にかけて太いミミズ腫れのような青黒い痣のような線が数本走っている。


「触ると痛むかい?」

「うん」

「悪いが触らせてもらうよ。ちょっと我慢してくれるね」

「がんばる」


 シュネールナは優しく痣に指を当てなぞるように触れた後、ルーペを取り出し痣をじっくりと検める。

 やがてなにか見つけたのか「おや」と小さく漏らすと振り返りカーラに尋ねた。


「痣はいつ頃から?」

「たしか……5日ほど前です」

「セラは森に遊びにいったりはするかい?」

「いえ、まだ小さいので森へは行かせないようにしています」

「ならテオは?」

「一人ではあまり。私と木の実を集めにいったりはしますがここ数週間は行っていません」

「ふむ」


 考え込むシュネールナにテディは気になる様子で声をかけた。


「あの、何かわかりましたでしょうか?」

「ん? あぁ、おそらくだがこれは”虫さされ”だ」

「虫ですか?」

「うん。小さな腫れの跡があるんだ。痣が濃いからパッと見ただけではわからないが触ってみるとよくわかる」

「なら大したことはないのですね」


 ほっと息をもらしたテディにシュネールナは険しい表情で言葉を発した。


「虫を甘く見ないほうがいい。毒性の強い虫は容易に人を殺しうる」


 その剣幕に押され黙り込んだテディの様子に気づいたのか「すまない」と詫びるとシュネールナは表情を柔らかくした。


「悪いね。職業柄どうしても毒のことになると強い言葉を使ってしまう。危険な虫の類はたしかに存在するんだがセラの症状には当てはまらないだろう。刺されて5日で症状としては重い風邪のようなものだしね」


 安心させるようにそう言いながらシュネールナはなおを思考を巡らせていた。


「森で刺されていないとなればあとはこの町でということになるが……セラのほかに似たような症状の者は出ていないのかい?」

「はい。後にも先にもこんな不思議な症状の話は聞いたことがありません」

「となると……セラ、最近何か動物に触ったりしたかい?」

「ミルキィをなでたよ」

「ミルキィ?」

「野良猫だよ! よく餌をもらいにやってくるの」


 テオが割り込んで答えたところによれば、ミルキィという白猫がどうやらこの辺りをなわばりにしているらしかった。


「テオ少年はそのミルキィというのがどんな猫かは見分けがつくかい? どこによくいるとかも」

「うん! わかるよ!」

「よろしい。ちょっとばかり出てくるとしよう。少しこの子を借りるよ」


 シュネールナは席を立ちテオに手招きすると手を引いて、一度家の外に出ることにしたようだ。

 カーラが慌ててあとを追いかけてきてどこに向かうか尋ねてくる。


「あのどちらに?」

「うん? 猫探しさ」

「猫……ですか?」

「そう猫探し。テオ少年、案内を頼む」

「いってきまーす! シュネールナさん! こっちこっち!」


 元気いっぱいに走り出すテオにシュネールナは「こら、待ちたまえ! 私は体力には自信がないんだ!」と情けない格好であとを追いかけ始めた。




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