花祭りでの再会から、私たちは恋人同士になった。
だけど、私たちにはひとつだけ、大きな壁があった。───距離だ。
私は関東、優斗さんは長野。
車で行けば数時間とはいえ、頻繁に会える距離ではない。
だから、会えない日々は、メッセージと電話が頼りだった。
朝、「おはよう。」
夜、「おやすみ。」
たったそれだけのやり取りでも、彼の存在を感じられた。
それでも、時々、寂しさに押しつぶされそうになる。
(今、優斗さん、何してるんだろう。)
(会いたいな…。声だけじゃ、足りないよ。)
そんな夜、耐えきれず電話をかけると、優斗さんは必ず優しい声で答えてくれた。
「寂しくなった?」
「……うん。」
「俺もだよ。次、会える日を楽しみに頑張ろうな。」
───優しいけど、優しすぎるから、よけいに涙が出た。
次に会えたのは、初夏だった。
私はまた長野へ向かった。
駅の改札で、優斗さんは私を見つけると、走ってきて、強く抱きしめてくれた。
「会いたかった。」
その一言に、胸がギュッと熱くなる。
「私も、会いたかったよ。」
やっぱり、声だけじゃだめだった。
触れられる距離にいるって、こんなに幸せなことなんだって思った。
遠距離恋愛は、楽しいことばかりじゃない。
会えない時間に、不安になることだってあった。
(本当に私のこと、好きでいてくれてるかな?)
(他に好きな人ができたらどうしよう?)
そんな弱い気持ちを、何度も何度も飲み込んだ。
でも、会うたびに思う。
彼の優しさも、笑った顔も、全部、嘘じゃないって。
私たちは少しずつ、距離を越えて、心を繋いでいった。
「───ねえ、優斗さん。」
ある夜、電話越しに私は聞いた。
「もしも、いつか一緒に暮らせたら、どこに住みたい?」
少し間があって、優斗さんは優しく答えた。
「君がいる場所なら、どこだっていい。」
涙が溢れて、携帯をぎゅっと握りしめた。
「ありがとう。」
遠く離れていても、心はこんなにも近くにある。
───きっと、この距離さえも、私たちの愛を強くしてくれる。