「今日は、どっちが先にお風呂入れる?」
キッチンでお皿を洗いながら、優斗がふと笑った。
「私が入れちゃうよ。あなた、昨日寝不足でしょ」
「いやいや、今夜は俺が抱っこで寝かしつける番だから。腕の筋トレと思えばね」
お互いに笑い合いながら、どちらが先に子どもたちをお風呂に入れるかを、穏やかに取り合う。そんな日常が、今ではすっかり私たち夫婦の“普通”になっていた。
第二子、
お互いの「弱さ」も、「疲れ」も、「限界」も、隠すことなく伝え合えるようになった。
ときには意見がぶつかることもある。でも、どちらも引かないような言い争いにはならない。
お互いが「この家族を守りたい」という軸を持っているから、最後はちゃんと、歩み寄れる。
夕食の後、リビングに広げた小さな布団の上で、子どもたちがごろんと寝転んで笑っている。
希美は弟に絵本を読んであげようとして、まだ覚えきれていない文字を一生懸命読み上げている。
雅紀はその声を聴きながら、くすくす笑っていた。
「ほら、寝る準備するよー」と私が声をかけると、優斗が希美を抱き上げ、私は雅紀を毛布でくるんだ。
夜、子どもたちが眠った後、湯気の立つカップを手に二人でソファに座る。
「……こんなふうに、毎日がゆっくり穏やかで、家族が一緒に笑っていられるなんて。昔の私じゃ、想像もできなかった」
「俺も。子どもって、こんなに幸せな存在なんだなって、毎日教えられてる」
「家族って、ちゃんと築けるんだね。過去にどんなことがあっても」
優斗は静かにうなずいたあと、そっと私の手を握って言った。
「これからも、何があっても、一緒に乗り越えていこう」
「……うん。私たち、もう大丈夫だよね」
そう言って見つめ合ったそのとき、私の胸にふわりと、やさしい風が吹いた気がした。
──これは、私が望んでいた“幸せ”だ。
誰かに許しを乞うような幸せではなく、誰かに奪われることのない、私たち自身が選び取った日々。
そして、家族という形の中に、新しい自分を見つける毎日。
かつては深い闇にいた「私」も、今では家族とともに、静かであたたかな光の中にいる。
小さな手が、私の指に絡む。
眠っている息子が、寝ぼけながら手を伸ばしたのだ。
私はその手を握り返して、静かに目を閉じた。
明日もまた、家族みんなで笑える日になりますように──と願いながら。