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第25話  深まる絆

「今日は、どっちが先にお風呂入れる?」


キッチンでお皿を洗いながら、優斗がふと笑った。


「私が入れちゃうよ。あなた、昨日寝不足でしょ」


「いやいや、今夜は俺が抱っこで寝かしつける番だから。腕の筋トレと思えばね」


お互いに笑い合いながら、どちらが先に子どもたちをお風呂に入れるかを、穏やかに取り合う。そんな日常が、今ではすっかり私たち夫婦の“普通”になっていた。


第二子、雅紀まさきの誕生で生活は一気に忙しくなったけれど、その分だけ、夫婦としての関係性は深くなっていった。


お互いの「弱さ」も、「疲れ」も、「限界」も、隠すことなく伝え合えるようになった。


ときには意見がぶつかることもある。でも、どちらも引かないような言い争いにはならない。

お互いが「この家族を守りたい」という軸を持っているから、最後はちゃんと、歩み寄れる。


夕食の後、リビングに広げた小さな布団の上で、子どもたちがごろんと寝転んで笑っている。

希美は弟に絵本を読んであげようとして、まだ覚えきれていない文字を一生懸命読み上げている。

雅紀はその声を聴きながら、くすくす笑っていた。


「ほら、寝る準備するよー」と私が声をかけると、優斗が希美を抱き上げ、私は雅紀を毛布でくるんだ。


夜、子どもたちが眠った後、湯気の立つカップを手に二人でソファに座る。


「……こんなふうに、毎日がゆっくり穏やかで、家族が一緒に笑っていられるなんて。昔の私じゃ、想像もできなかった」


「俺も。子どもって、こんなに幸せな存在なんだなって、毎日教えられてる」


「家族って、ちゃんと築けるんだね。過去にどんなことがあっても」


優斗は静かにうなずいたあと、そっと私の手を握って言った。


「これからも、何があっても、一緒に乗り越えていこう」


「……うん。私たち、もう大丈夫だよね」


そう言って見つめ合ったそのとき、私の胸にふわりと、やさしい風が吹いた気がした。


──これは、私が望んでいた“幸せ”だ。


誰かに許しを乞うような幸せではなく、誰かに奪われることのない、私たち自身が選び取った日々。


そして、家族という形の中に、新しい自分を見つける毎日。


かつては深い闇にいた「私」も、今では家族とともに、静かであたたかな光の中にいる。


小さな手が、私の指に絡む。

眠っている息子が、寝ぼけながら手を伸ばしたのだ。

私はその手を握り返して、静かに目を閉じた。


明日もまた、家族みんなで笑える日になりますように──と願いながら。


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