夕方、食卓には、優斗の好きな筑前煮と、希美が手伝ってくれた卵焼きが並んでいた。
「今日、保育園でパパの絵を描いたの。ひまわりみたいなパパだった!」
希美が嬉しそうに話すと、優斗は目を細めた。
「ひまわりかあ。パパ、そんなに明るく咲いてるかな?」
「うん、ママが元気ないとき、パパが笑わせてくれるもん。」
その言葉に、私はふと手を止めた。いつの間にか、私たち家族の中心には、こうして自然な笑顔が溢れている。娘の描いた絵には、オレンジ色の太陽の隣に大きく咲くひまわりがあり、その横に、私と希美、雅紀が描かれていた。
食事のあと、みんなで片づけをして、娘が眠ったあと、私はふと、優斗の肩にもたれた。
「ねえ、こんなに穏やかな毎日が来るなんて、思わなかった。」
「うん。俺も、正直あの頃、冬の長野で出会ったときは、こんなふうに一緒にごはんを作って、寝かしつけしてる未来なんて想像してなかったよ。」
ふたりで笑った。
「このまま、子どもたちが大きくなっても、家族で季節ごとの行事を楽しみたいな。お花見とか、夏祭りとか。」
「運動会も。あと、誕生日ケーキは、毎年手作りしてくれる?」
「もちろん。」
小さな約束を重ねるごとに、私たちの時間は少しずつ温かく、強くなっていく。
寝室に灯りを落とし、隣の希美と雅紀の寝息が静かに聞こえる。優斗が私の手をそっと握った。
「これからも、四人で一緒に歩いていこう。何があっても、ちゃんと話して、向き合ってさ。」
私はうなずいた。
「うん。私も、あなたとなら、どんな未来でも怖くない。」
優斗の手のぬくもりが、私の心の奥まで届いていた。家族という形が、少しずつ、でも確かに、私たちのなかに根を下ろしていく──そんな静かな確信に包まれながら、私は目を閉じた。