「どしたの? トワまで」
「ああ、いつもの奴よ。ブランシェ山に光の束が落ちたって報告があって騎士団が駆けつけたの。そこで聖女が危ない所を助けたのがトワだったのよ」
「つまり?」
「惚れられたってだけの話。ほんっといつもの事よ。そういう事迂闊にするからそういう目に遭うの! 何回言えば分かるの!?」
「そうは言いますが、それが俺の仕事なので……」
「まぁ確かに騎士の仕事を全うしただけよね、トワは。でもルチルの言い分も分かる! こういう奴はとにかく無自覚なのよ! 気のある振りとかじゃないんでしょうけど、何ていうかそういう誤解をさせるの! いっつも! で、後から言うのよ。そんなつもりじゃなかったってね!」
「おいおい、何か嫌な思い出でもあんのか?」
ヒートアップする私とルチルを見てクリスがおかしそうに肩を揺らした。そんなクリスに私は言う。
「友達がね、よくそう言って愚痴ってたのよ。それを聞いて私は男なんて信用しない。優しさはまやかしって自分に言い聞かせてたら気づいたらいい歳になっててさ……はぁ」
そして婚活で惨敗し倒したという訳だ。だから私は決意した。今生で結婚は無理だ。それならば一人でたくましく生きられるようになろうと!
「お前も大概色んな事こじらせてるよな。で、トワはどうすんの? 聖女に言い寄られたらいよいよお前、断れないぞ? ところで聖女って可愛い? 美人?」
結局聞きたいのはそこか、と思いながらクリスを半眼で睨むと何故かトワとばっちり目が合った。
「なに?」
「俺はヒマリの方が可愛いと思います。というよりも、正直見た目はどうでもいいんですよ……俺は俺を理解してくれない人とは無理です」
「あら、ありがと。もっと飲む?」
容姿を褒められた事で気を良くした私はトワのコップに返事も待たずに梅ジュースを入れた。
その間トワは目を瞑っておもむろに辺りの匂いを嗅いでいる。
「ありがとうございます。それよりもヒマリ、先程から何か美味しい香りがするのですが?」
「ああ、今日は照焼きチキン作ったのよ。クリスがどうしても食べたいって言うから奮発して二枚買ってきたの。一人一枚ずつよ!」
「イエイ!」
力こぶを作って見せた私にクリスが嬉しそうにはしゃぐ。うちの家では鳥肉を一人一枚なんて普段は絶対にしない。何でも仲良く半分個が基本である。
「え? 俺のは?」
「え? って、え? だって、今日来るなんて連絡無かったから無いよ」
「待って、もしかして私のも無いの?」
不思議そうに首を傾げたトワを見てルチルも横から口を挟んでくる。
「あんたのはもっと無いわよ! 腐ってもお姫様でしょ!? そもそもいっつも言ってるでしょ? いるならいるって早めに言いなさいって!」
何だかお母さんのような気持ちになって私が言い返すと、二人はあからさまにしょげた。
「そんな……最近パパのやる事で胃痛が酷いからヒマリのご飯楽しみにしてきたのに……」
「……」
胃痛の人に照焼きチキンは重いのでは?
「俺も昼までずっと山駆けずり回ってたからもう倒れそうです……」
「……」
それならまずここで愚痴る前に食事を摂るべきでは?
そんな事を言って二人は暗に自分達はこれほどまでに頑張ってきたのだアピールをしてくるが、無いものは無い!
「そんな顔しても無いものは無いわよ。タレはまだ余ってるから鳥肉買ってきてくれたら焼いたげるけど——」
「トワ!」
「はい! 行ってきます!」