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第15話 紅蓮の密約 

 王都への帰還途中、夕暮れの街道沿いで慶が立ち止まった。

  「ちょっと寄り道しようぜ。いい情報が手に入る」

  宙は眉をひそめた。「またお前の“裏取引”か?」

  慶は笑って肩をすくめた。「結果を出せば文句はないだろ?」

  案内されたのは、人目を避けるように建てられた古びた倉庫だった。中にはいかにも怪しい雰囲気の商人たちが待っている。

  「こいつら、帝国方面に詳しい連中だ」慶は耳打ちした。

  商人の一人が低い声で言った。「史書第二巻が、帝国の鐘楼に保管されているという噂がある。ただし、そこは厳重な警備付きだ」

  宙は思わず身を乗り出した。「本当か?」

  商人は肩をすくめ、「噂だ。だが確度は高い」と答えた。

  慶は金貨を数枚テーブルに置き、「情報料だ」と言った。

  宙は思わず声を上げた。「そんなに払うのか?」

  慶は笑って言った。「必要な投資だ。命より安い」



 取引が終わると、倉庫の外はすでに夕闇に包まれていた。

  宙は歩きながらぼやいた。「お前、本当に信用していいのか?」

  慶は笑って答えた。「信用じゃなくて使い分けだ。こういう情報源は一度きりでいい」

  美里は苦笑しながら言った。「慶は興味のないことは手を抜くけど、面白いことには全力だからね」

  宙はため息をつきつつも、「まあ、結果が出るならいいけどさ」とつぶやいた。

  夕陽が沈むころ、街道の先に王都の灯りが見えてきた。

  美里は振り返り、「帝国に行く準備を整えなきゃ」と真剣な表情を浮かべた。

  宙は拳を握った。「ああ、次は帝国だな」

  胸の奥に、少しずつ覚悟が芽生えていくのを宙は感じていた。

  ――史書第二巻、必ず手に入れてみせる。

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