王都への帰還途中、夕暮れの街道沿いで慶が立ち止まった。
「ちょっと寄り道しようぜ。いい情報が手に入る」
宙は眉をひそめた。「またお前の“裏取引”か?」
慶は笑って肩をすくめた。「結果を出せば文句はないだろ?」
案内されたのは、人目を避けるように建てられた古びた倉庫だった。中にはいかにも怪しい雰囲気の商人たちが待っている。
「こいつら、帝国方面に詳しい連中だ」慶は耳打ちした。
商人の一人が低い声で言った。「史書第二巻が、帝国の鐘楼に保管されているという噂がある。ただし、そこは厳重な警備付きだ」
宙は思わず身を乗り出した。「本当か?」
商人は肩をすくめ、「噂だ。だが確度は高い」と答えた。
慶は金貨を数枚テーブルに置き、「情報料だ」と言った。
宙は思わず声を上げた。「そんなに払うのか?」
慶は笑って言った。「必要な投資だ。命より安い」
取引が終わると、倉庫の外はすでに夕闇に包まれていた。
宙は歩きながらぼやいた。「お前、本当に信用していいのか?」
慶は笑って答えた。「信用じゃなくて使い分けだ。こういう情報源は一度きりでいい」
美里は苦笑しながら言った。「慶は興味のないことは手を抜くけど、面白いことには全力だからね」
宙はため息をつきつつも、「まあ、結果が出るならいいけどさ」とつぶやいた。
夕陽が沈むころ、街道の先に王都の灯りが見えてきた。
美里は振り返り、「帝国に行く準備を整えなきゃ」と真剣な表情を浮かべた。
宙は拳を握った。「ああ、次は帝国だな」
胸の奥に、少しずつ覚悟が芽生えていくのを宙は感じていた。
――史書第二巻、必ず手に入れてみせる。