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第14話 氷湖の夜 

 凍える風が吹きつける氷湖のほとりに、宙たちは野営を張った。

  灰色の森で史書第一巻を手に入れた達成感はあったものの、体力も気力も限界に近かった。

  「寒い……こんな場所で一晩過ごせるのか?」宙は焚き火に手をかざしながらつぶやいた。

  美里は笑い、「だからこそ、楽しむことを忘れないのよ」と答えた。

  そう言うと美里は荷物から小さな楽器と食材を取り出し、即席の宴を始めた。

  慶は目を細めて笑い、「おいおい、こんな状況で宴かよ」と肩をすくめつつも、用意していた酒を差し出した。

  陽香は怪我をした仲間に包帯を巻きながら、「こういう時間があるから頑張れるんだよね」と微笑んだ。

  宙は不思議な気持ちになった。忍耐が苦手な自分が、極寒の地で仲間と笑い合っている。

  「……悪くないな、こういうの」

  その言葉に美里は明るくうなずいた。「でしょ? 楽しむ心を忘れなければ、どんな状況も乗り越えられる」



 宴は次第に賑やかになり、楽器の音と笑い声が氷湖に響いた。

  ももこが歴史の小話を披露すると、ゆかりがそれを簡潔にまとめて子どもたちにも分かるように語り直す。

  陽香は焚き火の傍で温かい薬草茶を用意し、ライダーは黙って警戒しながらも、少しだけ表情を和らげていた。

  宙は焚き火を見つめながら、自分の中に芽生えた感情に気づいた。

  ――忍耐がない自分でも、この仲間となら前に進めるかもしれない。

  美里がそっと隣に座り、肩を軽く叩いた。「明日も大変だけど、楽しむ気持ちは忘れないでね」

  宙は照れくさそうに笑った。「……ああ、そうだな」

  夜空には満天の星が広がり、遠くに彗星の尾が見えた。

  その光景を胸に刻みながら、宙は眠りについた。

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