月曜の午後、灰色の森の入口に宙たちは立っていた。
そこは木々の葉さえも色を失ったように灰色がかり、風は冷たく、奥からは不気味な鳴き声が響いてくる。
瑞貴の魔導羅針盤は淡く光り、一定の方向を指していた。
「史書はこの先だな」瑞貴が真剣な声を発する。
宙は唾を飲み込みながら頷いた。「……やるしかない」
森の中は薄暗く、視界は悪い。やがて影のような魔獣が現れた。鋭い牙をむき出しにして突進してくる。
永が剣を抜き、先頭に躍り出る。「下がってろ!」
剣と牙がぶつかり、火花が散る。宙は咄嗟に叫んだ。「待て、殺さなくても!」
美里が驚いた顔で宙を見た。「宙?」
宙は短気を抑え込み、深く息を吸った。「追い払うだけでいい。無駄な命は奪わない」
永は一瞬だけ迷ったが、その言葉に従い、柄で魔獣を打ち据えて森の奥へと追い払った。
「……判断が早かったな」永が呟き、宙は少し照れくさそうに笑った。
やがて羅針盤の指す先に石造の祠が現れ、第一巻の史書が安置されていた。
宙は慎重にそれを抱き上げる。
史書を抱えた瞬間、祠の奥から再び魔獣の群れが現れた。牙をむき出しにして迫るその姿に、宙の心臓は早鐘を打った。
「全員、下がれ!」宙は思わず叫び、羅針盤を握ったまま前に出た。
美里が驚く。「宙、何をする気?」
「殺さない。脅して退かせるだけだ!」
宙は腰の短剣を抜き、地面に突き立てて大きな音を立てた。金属音と宙の強い視線に、魔獣たちは一瞬怯み、森の奥へと散っていった。
息を切らしながらも、宙は笑った。「よし……追い払えたな」
永が肩を叩く。「あんた、短気なわりに冷静な判断もできるじゃないか」
宙は苦笑した。「今だけだよ。でも、無駄な命は奪わずに済んだ」
史書第一巻を手に入れた一行は、森を抜けて戻った。
夕焼けの下で、美里が微笑む。「あなたの寛大さ、ちゃんと結果を出したわね」
宙は史書を胸に抱きしめ、力強くうなずいた。
――旅の最初の成果が、確かにここにあった。