「知っているけど……。知らない天井だ」
ナイトランプが淡くオレンジ色に染める天井をぼんやりと眺めながら呟く。
今寝ている天蓋付きベットの天井に旅先のホテルや旅館のような新鮮さを感じない。飽きるほどに見慣れた自室の安心感を確かに感じていた。
もっとも、その安心感は目が醒める直前の微睡みから既にあった。
キングサイズの大きなベットと大中小の幾つも重ねられた枕に自分が馴染みきっており、ついつい二度寝を貪りかけたほど。
目が醒めた後も暗さを感じると、考える前に習慣化した身体が勝手に動き、頭上のベッドの宮に備え付けられたスイッチを探って、ナイトランプを灯してもいる。
「ふぅ……。目が覚めたら『実は夢だった』ってのを期待していたんだけどな」
思わず溜息が漏れた。
本音を包み隠さず明かすと、頭を抱えながら広いベッドを左右にゴロゴロと転がり、喚き散らしたい衝動に駆られていたが、そうしたところで信じ難い現状は変わらない。
それに人生初の卒倒を経験した為、俺の感覚ではついさっきバスルームで何度もこれでもかと驚いたばかりというのもあり、自分以外の気配を感じない暗い部屋に満ちる静寂が冷静さを与えてくれていた。
恐らく、ヒルダがこの自室のベッドへと運んでくれたのだろう。
掛け布団とシーツが触れる感触で未だ全裸でいるのが解る。下着くらい履かせてくれよと思うが、今の身体の元主は子供の頃から全裸で就寝するのが習慣な為に仕方がない。
ぐっすりと寝た後の気怠さは感じない。
入浴していたのが夕方前。部屋はすっかり暗いが、日付はまだ変わっていない筈だ。
「細い……。」
右腕を天井へと持ち上げて、掌を大きく開き、絶望を軽く覚える。
二の腕を左手で試しに掴んでみれば、プニプニの柔らさ。更に引っ張ってみれば、餅のようにビヨーンと伸びる様子に顔が引きつった。
幼い頃、眩い閃光に心を焼かれて、その日から武の道をひたすらに歩んできた。
雨の日だろうと、風の日だろうと鍛錬を重ねて、その確かな証の固い腕は自慢でもあり、自信の源でもあった。
だが、それが今は見る影もない。
指の付け根などに幾つかあったタコも、受け身の練習で作られた前腕のシミも見当たらない。この白くて細い腕は苦労知らずの腕。
それもその筈、今の俺『メアリス・デ・リリアン・ウォースパイト』は巨大な軍事国家『アルビオン帝国』に籍を置く侯爵家の令嬢。
実際の爵位は父が持っているし、巨大な権力を持つのも父であり、貴族身分しか持たない十三歳の小娘だが、その権威は計り知れない。
着替えなどの身の回りの世話は勿論の事、大小のどちらも用を足す際は準備と後始末すらヒルダを始めとするメイドさん達が済ましてくれて、こちらは身体にGOサインを出すだけで足りる立場である。
誇張を抜きにして、ペンやスプーン、コップくらいしか持った経験が無い。
身体は決して痩せ細っておらず、女としてのふくよかさは持つが、水を満たしたバケツを持ち上げるのがやっと。それを運ぶとなったら、せいぜい三歩が限界な上、息切れで暫く動けなくなるのは必至だろう。
「はぁぁ~~~……。」
今度は深すぎる溜息が漏れた。
どうやら涙も溢れ出たらしい。すぐ間近にある開いた右掌が滲んで見える。
何故、俺は今『メアリス・デ・リリアン・ウォースパイト』としての意識を持っているか。
今さっき言葉にも出したが、目が覚めたら浴室での出来事が全て夢であり、悪友がニヤニヤと笑いながら『ドッキリ大成功』と書かれた看板を持って現れるのを期待していた。
しかし、卒倒前と変わらない現実は現在進行系で今も続いている。
まるで『胡蝶の夢』だ。元の男としての認識と記憶を持ちながら、メアリスとしての認識と記憶をしっかりと持っているのだから。
譬えるなら、バスタブに足の小指をぶつけた瞬間、メアリスというパソコンに俺というハードディスクが繋がったというのが解り易いだろうか。
当然の事ながら、男としての自分はどうなったのだろうかという疑問が浮かび上がってくるが、これがさっぱり解らない。
男だった俺は死に、この異世界に生まれ変わったのだろうか。仏教の教えにある『輪廻転生』の可能性が真っ先に浮かぶも俺自身に死んだ記憶は無い。
元の自分を生んでくれた父と母の名前。生まれ育った地方都市名。
小学校も、中学校も、高校も、大学も何処へ通い、それぞれにどんな友人が居たか。主だった思い出は全て憶えている。
大学卒業後、とある企業に就職するが、半年間の研修が終わる前に呆気なく倒産。
再就職先を探している最中、父方の祖父から『暇をしているなら手伝え』と言われて、生まれ故郷へ戻り、ホームセンターでアルバイトをしながらの兼業農家。
中学卒業後、すっかり疎遠となっている内に引き篭もりのオタク化した元優等生の女幼馴染の社会復帰を手伝っている内、いつの間にやら彼氏彼女の認識を互いの両親と田舎独特のコミュニティの中で育まれてしまい、百歳の大台を乗った祖父が大往生したところまでは憶えているが、そこから先が思い出せない。
大病は患っておらず、健康だったから病死はあり得ないだろう。
幼馴染はゲームばかりしておらず、三食をきちんと食べているのか、風呂は入っているのか、水田の管理はちゃんと行っているのかが心配だ。
「はぁぁ~~~……。」
今一度、深すぎる溜息を漏らす。
右手を重力に任せて下ろすと、弾力性抜群のベッドが揺れて、同時におっぱいがプルルンと揺れるのを感じる。
その途端、疑問も悩みも何もかも全てが吹き飛んだ。
思わず上半身をベッドから勢い良く跳ね起こしてみれば、今さっき以上におっぱいがプルプルンと揺れ、男としての人生では一度も感じた事の無い重みを胸に感じる。
たまらずおっぱいをもみもみ。もみもみのもみもみ。
ヒルダと比べたら圧倒的に、幼馴染と比べても小ぶりだが、この身体が今はまだ十三歳である点を考えたら将来性は少なくとも幼馴染より有る。
更にもみもみのもみもみ。夢中になって、もみもみもみもみのもみもみ。
ふと二つのぽっちが自己主張して尖っているのを見つけて、興味が赴くままにソレを摘んだ次の瞬間。
「ぁふっ!?」
電流が二つのぽっちから全身へと走った。
強い刺激のあまり甘い声が口から溢れて、背が弓なりに反れて身体が跳ねる。
「い、今のって……。」
どうやら男のサガに逆らえず、おっぱいの柔らかさに原初的な安心感を得て、現実逃避に陥っていたらしい。
我を取り戻してみると、火照った全身が汗をうっすらと帯びており、下腹の奥が小さな灯火を宿して、甘い疼きを発しているではないか。
それが意味するモノは何なのか。
私『メアリス』にとっては大きな疑問だが、それが解らないほど俺は子供でもなければ、初心でもない。
当然、興味は別のトコロへと移った。男として当然の事だ。
おっぱいとそのぽっちでこうなのだから、もっと大事な部分を触れてしまったらどうなってしまうのか。
「これで……。良しっと!」
だが、その前に大中小の幾つも重ねられた枕の左右に鎮座するクマとウサギの大きなぬいぐるみを裏返して、背を向けさせる。
今、この身体は俺のもの。それをどうこうしようと俺の勝手だが、これから行おうとしている行為を考えたら、そのつぶらな瞳に見つめられたままでいるのは辛かった。
次に枕を積み上げて、高さを調整。そこに背を持たれる。
この逸る気持ちを抑えた判断は大正解だった。布団を跳ね除けると、寝たままでは目視が不可能だった大事な場所が、私『メアリス』が密かなコンプレックスを抱えている生えていないアソコがばっちりと見え、これで狙いを違える心配は要らない。
「すーーっ! ……はーーっ! すーーっ! はーーっ! すーっ、はーっ!」
最後に荒ぶりまくっている鼻息を抑える為、深呼吸を三回。
これで全ての準備は整った。胸がドキドキと喧しいくらいに高鳴る中、ベッドに投げ出している足を曲げて、立てた膝をゆっくり開いてゆくと共に両手を大事な部分へと恐る恐る伸ばす。
「ぁうんっ!?」
そして、そこに右手の指先が触れた瞬間、ポッチを摘んだ時以上の刺激が全身を駆け巡った。