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第4話 繰り返される失敗




「ぁうんっ!?」



 そこに右手の指先が触れた瞬間、ポッチを摘んだ時以上の刺激が全身を駆け巡った。

 ポッチを摘んだ時の刺激が電流なら、今度の刺激は爆発。たまらず腰が勢い良く跳ねて持ち上がり、非力な身体にも関わらず、肩と両足を支えにしたブリッジが完成。


 一瞬にして、下腹の奥に宿っていた灯火は轟々と燃え上がった。

 堪えきれない疼きが更なる刺激を求めて、もっともっとと叫んで訴えてくるが、俺は動けなかった。ブリッジの体勢のまま石のようにピタリと固まった。


 何故ならば、腰が跳ねた瞬間、視線が大事な部分から頭上へと向かう一瞬の道中、薄暗闇の中に見えたからだ。

 ベッド足側の真正面。部屋の出入り口のドアを開けて、目を見開きながら口をポカーンと開ききって立つヒルダの姿が。


 恐らく、夕食を運んできてくれたのだろう。

 やはり一瞬だったが、ヒルダの隣にパンとスープ皿を載せたワゴンが見えた。


 恐らく、俺がまだ寝ているかも知れないと気を効かせてくれたのだろう。

 興奮して夢中だったのもあるが、入室を求める声も、ドアをノックする音も、ドアを開ける音すらも俺の耳には届いていなかった。


 その手厚い親切心が今はとても恨めしい。

 季節は春。寒気を遮る冬季用のカーテンも、虫の侵入を防ぐ夏季用のレースカーテンも天蓋から張られておらず、どちらもベッド四方の柱に束ねられている。


 いつからそこに居たかは解らないが、ヒルダの様子から察するに一部始終を目撃されてしまったに違いない。

 どんな言い訳も通じそうに無くて、このまま時が永遠に止まってくれるのを願うが、腹筋力に乏しい身体が音を上げて、腰がベッドに落ちる。



「え、ええっと……。しょ、食事を運んでくれたのね!

 で、でも、今はお腹が空いていないし、あとで食べるからそこに置いといて! ヒ、ヒルダは下がって良いよ!」



 こうなったらと平静を装った『何事も無かった』作戦を決行するが、これが大失敗。

 腰を下ろした事によって、真正面から注がれているヒルダの視線を強制的に受け止めなければならなくなり、気まずさのあまり顔を右、左、右、左と忙しなく向けた末に身を翻して、ベッドにうつ伏せになりながら顔を枕に埋める。

 今すぐ頭を抱えながら思うがままに叫びたい衝動に駆られるが、それはヒルダが部屋から出て行き、出入り口のドアが閉まって、その気配が完全に部屋の前から消えてからだと懸命に堪える。


 しかし、渇望するその時は幾ら待てども訪れようとしない。

 ワゴンを押すタイヤの音が聞こえ、それがベッドの右脇で止まるが、ヒルダの気配はそこに在り続けたまま。


 暫くして、ベッドが軋む音を立てて、微かに揺れる。

 気配がより近づき、ヒルダがベッドの縁に座った為の振動だと悟り、埋めた枕の中で眉を『何故!』と跳ねさせる。



「大丈夫ですよ。恥ずかしがる事なんて、ちっとも有りません。

 年頃になれば、誰もが興味を持つ事です。口に出したりはしませんが、皆がシている当たり前の事で……。ええ、お嬢様は遅かったくらいです」



 それに対する回答は優しかった。とても優しい声だった。

 だが、今は放っておいて欲しかった。どの道、明日の朝になったら顔を合わせなければならないのだから、その時まで勇気をかき集める時間が欲しかった。



「ち、違う! ち、違うから! さ、さっきのは……。」



 遂に心が限界を突破。ベッドを両掌で思いっきり叩き、その勢いのままに上半身を跳ね起こす。

 何が違うのかは自分自身にも解らない。どう足掻いても無駄だと承知しながらも足掻かずにはいれず叫んだが、それ以上の足掻きは出来なかった。


 但し、荒ぶる感情に任せて、弁解を見切り発車させた為に言葉を見失ったからではない。

 先ほどまでメイド服姿だった筈のヒルダが今は全裸となり、素肌の背中を見せて、ベッドの縁に座っていたからだ。



「今にして思えば、浴室のアレはお嬢様なりの合図だったのですね?」

「えっ!?」



 心に満ち溢れていた恥ずかしさは瞬く間に驚きへと変わた。

 絶句した口をパクパクと開閉させていると、ヒルダは微笑みを振り向かすと共に四つん這いとなり、ベッドの上をゆっくりと進んで近づいてくる。



「そうとは気づかず、申し訳ありませんでした。

 でも、駄目ですよ? だからと言って、一人で為さろうとしては」

「えっ!?」



 そのナイトランプのオレンジ色に淡く照らされて、陰影を濃くする姿は妖艶というしかない。

 目のやり場に困って、視線を忙しなく彷徨わせるが、何処もかしこも危険が一杯。こうなったら顔を枕に再び埋めて、耳も両手で塞ぎ、視覚と聴覚を強引に閉して、この場をやり過ごすしかないという結論に至ったその時。



「お嬢様のソコは将来の旦那様へ捧げる大事なモノ。

 もし、ソコを傷つけて、証を失ってしまったら一大事です。

 お嬢様が恥をかくばかりか、ウォースパイト侯爵家が存亡の危機に陥る可能性だって有ります」

「ひゃっ!?」

「だけど、ご安心を……。私が居ます。

 実を申しますと、お嬢様の専属になった際、その役目を旦那様から承っています」

「えっ!? ……ちょ、ちょっと、ちょっとっ!?」



 ヒルダが俺のお尻をタッチ。

 手を上に、下にと動かして愛おしそうに撫でた上、その指先をなんとなんと閉じている股の間に差し入れてきた。



「そう身体を強張らせずに力を抜いて下さい。ほら、私に身を委ねて……。」

「ぁうんっ!?」

「ウフフっ……。お嬢様、可愛いですよ」



 そして、甘く長い夜が始まり、それは一生忘れられない思い出になった。




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