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第3章_紙片に刻まれた地図

 翌日、晃たちは城下の学術院へと足を運んだ。昨日、司書から受け取った古地図は部分的に欠損しており、詳細な位置関係は分からない。そのため、正確な情報を求めて王都の中央に位置する学術院の書庫を訪れることになったのだ。

  学術院は白亜の壁に囲まれ、広い階段を登った先に巨大な円形ホールが広がっていた。壁一面には無数の本棚と、天井に届くほどの巻物収納筒が並んでいる。

  佳那が目を輝かせて言った。

  「すごい……これ全部、古代資料?」

  案内役の若い研究員が頷いた。

  「この学術院には王国の歴史と科学の全てが集められています。閲覧には許可が必要ですが、司書長からの紹介があれば問題ありません」

  晃は胸の奥で小さく息をつきながら資料室の奥へ進んだ。そこには防護ガラスに覆われた羊皮紙の束や、金属板に刻まれた古文書が並べられていた。

  彩夏が小声で尋ねた。

  「晃、あの光の渦とこの世界の関係、本当に見つかるかな?」

  晃は頷いた。

  「見つけるしかない。ここまで来て何もしないわけにはいかない」

  資料を一つひとつ確認していく中、佳那が小さな悲鳴を上げた。

  「見て、これ!」

  彼女が指差した羊皮紙の余白には、王国全域を示すと思われる古地図が描かれていた。昨日の古地図と同じ印が、より正確な位置関係で記されている。

  優太がすぐに現代的な観点から解析を始めた。

  「過去五十年の航路や交易記録と照らし合わせれば、実際に行けるルートが分かるかもしれない。晃、この写本を撮影させてくれ」

  ジョーダンがその様子を眺めながら微笑んだ。

  「科学と歴史の融合ね。なんだか映画の調査チームみたい」

  エマーソンは地図に描かれた古代文字を指でなぞり、深い声で言った。

  「この文様……《門》を意味する。だが条件が付随している。『五つの光を集めし者、時の楔を解かん』……これは転移条件そのものではないか」

  晃の背筋が粟立った。五つの光――五つの結晶。それらを集めなければ帰れないのだ。



 佳那は震える手で羊皮紙を持ち上げた。

  「この印……ただの装飾じゃない。結晶の位置を示しているはず」

  晃は彼女の肩越しに地図を覗き込み、頷いた。

  「確かに、五つの印が規則的に配置されている。これは偶然じゃない」

  優太がタブレットに記録した数値を見比べながら言った。

  「この地図、縮尺が特殊だ。でも交易路と重ね合わせると移動可能なルートが見えてくる。まず行くべきは……水の都、ルルイエだな」

  純也が不安げに眉をひそめた。

  「けど、俺たち、武器も護衛もないんだぞ?」

  彩夏はまっすぐ純也を見て言った。

  「だからこそ、話し合いで解決するの。無理に奪うんじゃなくて、結晶を正当に譲ってもらう方法を探そう」

  ジョーダンが感心したように微笑む。

  「あなた、勇気あるわね。異世界に来て一日で交渉の覚悟を決めるなんて」

  晃は腕を組み、思考を整理し始めた。

  「まずは旅の準備だ。食料、水、宿泊道具……そして現地通貨。優太、必要資金の試算をしてくれ。明日美、物資の管理を頼む」

  明日美は落ち着いた声で答えた。

  「了解。荷物の種類と重さを整理しておくわ」

  佳那は目を輝かせて、別の文献を手に取った。

  「この紙片には、結晶の封印方法についても記録があるみたい。未知の魔道具も出てくる。ぜひ試してみたい!」

  晃は彼女を制止した。

  「実験は慎重にな。今は生き延びることが最優先だ」

  エマーソンが抽象的に呟いた。

  「封印と解放、二つの概念は常に表裏一体……この旅は、我々の価値観を問うものになるだろう」

  晃は全員の視線を集め、結論を口にした。

  「まずはルルイエを目指す。そこで最初の結晶を確保する。それがこの世界で生き延びるための第一歩だ」

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