「神様の……存在……?」
出会った時からわたしのことを神様だとか創造神だとか言っていたのに? と
「よかった。ああ、さっきからアンタのことを神様だ何だって言っておいて、何を変な質問をしているんだって感じだよね。でも、これはとても大切なことなんだ。アンタにも関わることだからね」
「わたしに……?」
ああ、とピカネートが頷く。
「アタシは最初、アンタを神様か、何かそれに近い存在なのかと思った。なんてったって、空から落ちてきたわけだからね。でもアンタの話を聞くと、どうも違うみたいだ。神様っぽくないって言うか……普通の子供っぽい」
(それは、まあ……普通の子供だし……)
「アンタがどうして空から海に落ちてきたのか。その理由はわからないけど、でも元々いた場所――アンタの家かい?――で寝て、気づいたらここにいたんだろう? アンタが書いたっていうお話とよく似た場所に」
「うん」
「しかも、寝る前に星空に願いごとをしたら、その通りになったときた。これはもう、神様の力が働いていると思わないかい?」
「……確かに、そうかも」
ピカネートの言う通り、宇海は星空に——神様に向けてお願いごとをした。その願いが叶ったと言うならば、神様が叶えてくれたと考えるのが自然かもしれない。
納得した様子の宇海を見て、ピカネートは話を続けた。
「ウミ。実はまだアンタに言っていないことがあるんだ。アタシたちがこの船に乗って冒険している理由、目指している場所をね」
ピカネートが真面目な顔で宇海を見つめた。
「アタシらが追われている身だって話はしたよね。今だってこの船の帆が水平線から見えないか、血眼になって探しているに違いないよ。それでもアタシは……アタシらは、アイツらを振り切って、手に入れたいお宝があるのさ。そのお宝が何か、わかるかい?」
「えっと……」
海賊が手に入れたいと思っているお宝。それはやっぱり……。
「使いきれないほどの、金銀財宝……?」
宇海が答えると、ピカネートは口元にふっと笑みを浮かべた。
「いいねぇ。一生食うに困らないだけの金。手に入れてみたいものだ。……でも、それ以上に手に入れたいものがあるのさ」
それ以上に手に入れたいもの……? 考えても考えても、宇海にはそれがなんなのかさっぱりわからなかった。
「ねえ、そのお宝って、なんなの?」
思わず前のめりになって問うと、目の前の海賊は不敵な笑みを浮かべた。
「――自由さ」
「自由……?」
ああ。とピカネートが頷く。
「船に乗って大海原を冒険する自由。好きなだけ音楽を奏でられる自由。好きな時に好きな料理を作って食べる自由。誰かに縛られない自由。そして——家に閉じ込められることなく、行きたい場所へ行く自由」
ピカネートは最後の言葉に特に熱を込めて言った。その言葉は宇海の心にすっと突き刺さった。家に閉じ込められることなく、行きたい場所へ行く自由。なんて素敵な自由だろう。
「そうした自由を求めて、アタシたちは海に出た。でもその自由を脅かそうとする奴らがいる。……だから、アタシたちが自由に航海できるよう、神様に直談判しに行くのさ」
「そうなんだ……」
壮大な計画を聞かされた宇海は、半ば放心していた。自由を得るために行動する。そんなこと、今まで考えたこともなかった。しかも神様にじか……じか、だんぱん……?
「じかだんぱん……って……直接、お願いすること、だっけ……?」
「ああ、そうだよ」
「えっと、じゃあ、神社……じゃなくて、教会に行くの?」
海を越えた先に素敵な教会でもあるのかな、と宇海が考えているとピカネートが首を横に振った。
「いや、教会には行かないよ。教会では直接会えるわけじゃないからね。言ったろう、直談判って。会いに行くのさ、本物の神様に」
「……え」
本物の、神様に……会いに行く? そんなこと、できるわけがない。だって神様たちは神話の存在で、この世界にいるわけではないのだから。
「おやおや、その顔は信じてないね? でもアンタだって空から落ちてくるなんて普通じゃありえないなことをしたんだ。だから、その〝ありえないこと〟を実現させる力を持った人、すなわち神様は存在する。こう考えることだってできるだろう?」
「そうれは……そうかも、しれないけど。でも、神様ってどこか別の……遠い場所にいたりするものじゃないの? 神様の存在を疑うわけじゃないけど、現実に会えるものじゃないんじゃ……」
「そんなもの、会ってみなきゃわからないだろう。それに、現に〝ウミ〟っていう創造神がアタシの目の前にいるしね」
「わ、わたしは……そんな、神様じゃ……」
「ああ。アンタが本当に神様かどうかは今はいいんだ。とにかく、アタシが言いたいのは、今アタシたちは自由に航海ができるよう神様にお願いしにいく途中だってことさ。これはわかったかい?」
「う、うん……」
未知なる冒険への期待に胸を膨らませていた宇海だったが、ピカネートの話を聞きながら少しずつ不安な気持ちも抱き始めていた。神様に会いに行くなんて、本当にできるのかな。大丈夫かな……。でも今いるこの時代がもし大航海時代と似ているなら、元いた時代よりも迷信深い人が多いのかもしれない。それにもしかしたら、この世界には本当に神様が実在しているのかもしれない。もしそうなら、どんな神様なのか会ってみたい気はする。
(もしかしたら、魔法もあるのかな……)
知らない世界に来たからちょっと戸惑っているだけで、ちゃんとこの世界のことを知れば、きっとピカネートの話ももっとわくわくしながら聞けるのかも。宇海はそう考えて気を取り直した。
「よし。じゃあここまで理解してくれたところで、ウミにお願いがあるんだ」
「お願い?」
「アンタ、お話を書いたってことは、字が書けるんだろう?」
「それくらい……あ、うん」
誰でも書けるでしょ、と言いかけて、宇海は慌てて口をつぐんで頷いた。大航海時代は読み書きできる人が少ないことを思い出したのだ。
宇海が字を書けるとわかったピカネートは、ニィっと唇の端を吊り上げた。
「ウミ、アタシたちのお話を書いてくれないかい。これはアンタにしかできない仕事だよ」