とある街のかたすみにあるとある酒場で、とある音楽家たちが演奏をしていました。酒場にはちょっとしたぶたいがあり、かれらはいつもそこで歌ったり、楽器を奏でたりしています。酒場にいるお客さんたちも、いつもその演奏を楽しみに来ています。
いつもすてきな演奏をしているので、音楽家たちは街の人気者です。中でも銀ぱつの貴公子と呼ばれているサミニクは特に大人気で、街の女の人たちはみんなサミニクに夢中です。そのことを他の音楽家や男の人たちは不満に思っていました。
とある新月の夜のことです。その日も音楽家たちは酒場で音楽を奏で、お客さんたちは飲んだり食べたりしながら演奏に耳をかたむけていました。サミニクが客席に下りて演奏しながら歩いていると、一人の女性客が目につきました。サミニクが近くに来ると女の人はみんな黄色い声を上げるのですが、その人はただじっとサミニクをながめているだけだったので、それがふしぎだったのです。その人のことが気になったサミニクは、演奏をやめて話しかけてみました。
「やあ、うるわしいおじょうさん。こよいのうたげは気に入りましたか?」
すると女の人は声を張ってこう返しました。
「やあ、神秘的なおじょうさん。うたげはとても気に入ったよ。ところで、アタシは今いっしょにぼうけんしてくれる仲間を探しているんだ。アンタみたいに、男に混ざって何食わぬ顔で楽器をひいているようなヤツなんかがちょうどいい。どうだい、アタシといっしょに来ないかい?」
「ああ、いいだろう」
これを聞いただれもがおどろいて、いっしゅん酒場が静まり返ったあと、一気に大さわぎになりました。なんとサミニクが本当は女だったとはだれも知らなかったのです。しかもとつぜんの申し出をサミニクが断らずに受けたのですから、もう大変なさわぎです。男の人たちはおこりだし、女の人たちは悲鳴を上げました。音楽家たちはサミニクとサミニクをさそった女の人をつかまえようとしました。男の人たちも音楽家たちに加勢します。二人にはもうにげ場がないかと思われました。
一人の男の人がサミニクをつかまえようとしたそのとき。ぴょんっとサミニクは飛び上がり、つかまえようとした人の頭をふみ台にして天井のはりにぶら下がりました。そしてなんとそのまま軽々とはりの上に登ります。これではだれも手が届きません。だれにもじゃまされない場所で、サミニクは軽快な音楽を奏で始めました。
別の男の人たちはサミニクをさそった女の人をつかまえようとしました。三人でかのじょの周りを囲み、せーのでおそいかかりました。しかし、どういうことでしょう! つかまえたはずの彼女の姿が見当たりません。かのじょはどこに行ったのかと男の人たちがきょろきょろしていると、一人ずつ順番に頭をたたかれてたおれてしまいました。なんとかのじょは、つかまるしゅんかんに素早く男の人たちの間を通りぬけていたのです。それからもかのじょは素早い身のこなしでどんどん男の人たちを倒していきます。これではだれも敵いません。
酒場でさわぎが起きている間に女の人たちはみんなにげていき、男の人たちはみんなたおされてしまいました。もう二人をじゃまする人はだれもいません。二人はいっしょに酒場から歩き去りました。
「アタシのさそいに乗ってくれてありがとう。アタシはピカネートだ。アンタは?」
ピカネートと名乗った女の人が聞きました。
「こちらこそ、ゆかいなぼうけんにさそってくれてありがとう。我が名はサミニク。こちらは相棒のミリーだ」
サミニクが自分の楽器をかかげながら言いました。
「サミニクとミリーだね、よろしく。ところで、よく考えもせずにさそいに乗ってもよかったのかい?」
ピカネートがまた聞きました。
「ああ、問題ないさ。うるわしいおじょうさんからのさそいは断らないようにしているからね。それに、わたしの男装を見破ったのはあなたが初めてだ。なにか面白そうなことが起こる予感がした。だからついていくと決めたんだ」
サミニクが答えました。するとまたピカネートが疑問を口に出します。
「アンタはどうして男装なんかして、男に混ざって演奏をしていたんだい? 女の格好のままでも演奏はできるだろう?」
「ああ。あなたの言う通り、女の格好のままでも演奏はできる。昔は教会でそうしていた。でも、女の格好のままだと、教会で神にささげる音楽しか奏でられなかったのさ。もっと自由に、もっと色んな音楽を奏でたい。だからわたしは教会をぬけ出して、男のまねごとをして、男に混ざって酒場で演奏をするようになったんだ」
「そうかい。酒場での演奏は、自由だったかい?」
「自由とも言えるし、不自由とも言えるね。色んな音楽を奏でられたけど、女だとバレないようにする必要があった」
と、少し悲しそうな顔をして答えるサミニクに、ピカネートが元気づけるように言いました。
「だったら、アタシについてきたのは正解だよ! なんたって、これからは自由に音楽を奏でられるし、男のまねごとをする必要も、女だとバレる心配をする必要もないんだからね!」
「それは本当かい?」
「ああ、もちろん本当さ。アタシはこれから、女だけの海ぞく団を作るんだ! 船の上でどんな演奏をしようが、どんな格好でいようが、アンタの自由だよ」
「ほう、それは面白い! ならばこう言わねばならないね。これからよろしくたのむよ、我らが船長」