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追憶のディルハイド 第6話

シルトファード陥落から数ヶ月。

私はあのあと、自分の世界に戻った。

相変わらず、この場所は平和だ。

木々が風にそよぎ、川のせせらぎは絶え間なく流れる。

木漏れ日の中に身を置きながら、私は目を閉じ──思い出していた。


紫炎に包まれた王都。

剣と魔法が交錯する喧騒。

何もかもが、熱く、激しく、そして確かだった。

“生”を実感できる場所だった。


ここでは──違う。

風は心地よく、空は高く澄んでいる。

けれどこの静寂は、まるで“生”から切り離されたようで、私の中の何かを鈍らせていく。


「また、これか⋯⋯」

私は呟く。


やがて、私は気づく。

この世界に居ても、私はもう、かつての“私”ではない。

“戦場”こそが、私を私たらしめていた。


──そのとき。


「ディルハイド?待った?」


拍子抜けするような軽い声が、風に乗って、頭上から降ってくる。

私はうんざりしたように目を細めた。

「⋯⋯あぁ、待ちくたびれたな」


ヘッレが、まるで楽しみな遠出の準備でもするような口調で言う。


「これから、時間をかけてエルフの住処六か所を制圧しよう!あ、ついでに近隣の町も、まるっとね」


私は低く呟いた。

「一気に叩けば済むものを」


「いやいや、じわじわ攻めるのがいいんじゃないか。緊張が続くと、心が壊れる。それが、ドラマってやつだよ」


「⋯⋯悪趣味だな」


「エルフの住処は、ディルハイドと脳筋で制圧しよっか?近隣の都市や町は──」


「兄上が、喜んで破壊するだろうな。そちらは一任する。誘導は頼む」


ヘッレは名案のように、跳ねた声で言う。

「じゃあ、“百鬼夜行”の始まりだ!」

「⋯⋯ひゃっきやこう?何だそれは」


「夜の闇にね、百の怪異が列をなして練り歩くんだよ。どう?ちょっとワクワクしない?闇を従えて進む感じで、かっこよくない?」


「⋯⋯我々を化け物扱いしているのか?」


「え?知らなかった?」


私は目を少し伏せた。

「⋯⋯まぁいい。夜襲か⋯⋯それだけは面白い」


「じゃあ、早速行く?脳筋も後で合流させるよ!」


六つ──南から北へ連なる、エルフたちの“住処”。

そのすべてが、時間をかけながら、我らの手で沈められた。


あまりに、呆気なかった。

兄上は“ついで”に、単騎で周囲の都市や町を破壊していった。


理不尽に。

不条理に。

命を落とした民は、最後まで理解できなかったはずだ。

なぜ自分が、何の罪で、ここで死ぬのかと。


逃げ惑い、助けを求め、それでも届かない。──勇者と名乗った、“異世界”の者たちよ。

その風情で、よくも“勇者”などと。


レベルも低い。

覚悟も無い。

貴様らが勇者?──ふざけるな。


私があのとき対峙した勇者は、この世の者とは思えなかった。

そして、“雷帝”シリス。

貴様もだ。


だが──私は今、その勇者やシリスをも超える“力”を保持している。


「見ているか!勇者よ!“雷帝”シリスよ!」


「貴様らの“正しさ”を── この“力”で蹂躙しているぞ!!」


この手で、消してやる。

私の記憶に居座り続けた、貴様らすべてを──

最北の、エルフの総本山、ノエルナ村で全てを終わらせる。


ヘッレが言うには、どこかに“チート”と呼ばれる最強レベルの勇者がいるらしい。

それに関しては一応、兄上にも話した。

妙に気持ちが高ぶっていたが。

⋯⋯本当にいるなら殺す他無い。


界紋の罅が開く『シュルツピア』から数日。私と兄上はノエルナ村近郊に着いた。

深い森を進んで行くと、遠方の気配に兄上が気づく。


「おォ?エルフの兵が並んでるぞォ?俺がちょっくら狩って⋯⋯」

「フラメディオル」


兄上が大斧を構えた瞬間、黒炎が、私の十指から奔る。

森は一瞬で火柱となり、隊は──沈黙した。

この炎を、ノエルナ村から見た者もいるのだろう。

焦る様を想像すると、実に滑稽だ。


兄上はいじけたような声で、

「弟ォ!俺にも残しといてくれよォ!」

「⋯⋯少し見晴らしのいい丘に行きましょうか」


ヘッレの声が聞こえないことに、微妙に違和感を感じたが、冷静さを保ちながら、私は歩みを進めた。




おわり



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