「うおおおお!何だこれかっけぇ!!武器も防具もゲームの内の俺の装備になってる!」
ぶき:マスターソード
かぶと:ゆうしゃのかぶと(ドラゴンタイプ)
ぼうぐ:ゆうしゃのよろい(ドラゴンタイプ)
たて:ゆうしゃのたて(ドラゴンタイプ)
アクセサリー:りゅうのうろこ
「これで俺と大輔は一心同体だ!さぁ、あのダークエルフたちを倒すぞ!」
「おう!」
その様子を見ていたジョルジュは、微笑みながら親指を立て、
「勇者様⋯⋯グッドラック!」
そう言って姿を消した。
そして、ティロリン♪と再び音が鳴った。
風がそよいだ。
ファナの髪がふわりと揺れ、シリスの背中がビリ、と小さく鳴った。
──世界が、再び動き出す。
「さて、行くか。俺たちの“本気”ってやつを見せてやる!」
大輔は、マスターソードを静かに構えた。
刃の表面に雷光のような刃文が走り、剣全体がわずかに唸る。
「よっしゃあ!筋肉ダルマぁ!こっからは俺のターンだぁ!」
ファナは、大輔の姿に目を細めた。
その瞳に映るのは──勇者の姿。
「勇者様の姿が⋯⋯これが、私の求めていた勇者様⋯⋯」
ボルドゥーンはその気迫に圧され、一歩後ずさった。
「ぬ、ぬおッ!?何だその姿はァ!?」
「カッコいいだろ?今の俺、めっちゃ強いぞ?」
大輔が踏み込む。
その瞬間、空気が張り詰め──
マスターソードが、ボルドゥーンの構えた大斧ごと、肩口から斜めに振り抜かれた。
「うぐあああああぁぁぁぁッ!!」
ボルドゥーンの巨体が吹き飛び、斬られた斧の刃は、回転しながら泥人形たちを潰し、地面に突き刺さった。
その叫び声のする先に、ディルハイドが視線を送る。
その瞬間、彼は目を見開き、気が動転した。
「なぜ⋯⋯なぜ貴方が勇者と共にいるのですか!」
狼狽え、後ずさるディルハイドを、シリスは見逃さなかった。
「ファナ!バリアの外にいるわしらに『フワット』をかけるんじゃ!」
「は、はい!⋯⋯フワット!!」
大輔、ファナ、シリス、リーシュの身体が次々に宙に浮いた。
「おぉ、これがフワット!」
大輔は緊迫した状況をよそに、少し嬉しそうだ。
「兵たちよ!結界展開じゃ!一人たりとも気を抜くな!バリアはまだ不十分じゃ!まともに食らうぞ!リーシュ!泥人形はわしが殲滅する!お前は──ディルハイドにぶち込め!」
シリスが浮遊しながら、片手を大地へ翳す。
その掌に奔った光が、次の瞬間──
「ウーデレゲンリーン!!」
雷鳴が咆哮し、地面に沿って奔る稲妻が蜘蛛の巣状に広がる。
次の瞬間、爆ぜるような光が辺りを白く染めた。
泥人形は悲鳴もあげる暇なく黒焦げとなり、砕け、崩れ落ちる。
その余波に、ボルドゥーンとディルハイドも巻き込まれ──
「グゥオオオオ!!」
「ぐっっっ⋯⋯不覚!!」
稲妻が去った空間に立ち尽くすディルハイド。その目が前を捉えた瞬間。
すぐ目の前に、鋭い眼光を放つリーシュがいた。
至近距離。
間合いは、呼吸ひとつ。
「くらえ!!──シュトゥルム・ガン・トゥルーア!!」
両手から放たれた風が竜巻となり、ディルハイドを空へ引き上げながら切り裂く。
何層にも渦巻く刃が、容赦なく肉体を裂き、装備を砕き、意識を削る。
「ぐわああああああああ!!」
最後の風が爆ぜるように消えた瞬間、ディルハイドの身体は空から落下し、鈍い音を立てて地面に叩きつけられた。
砂煙がわずかに立ちのぼる。
シリスは口角を少し上げながら、
「リーシュよ。充分お前は強いじゃないか。⋯⋯わしの後悔を増幅させるつもりか?」
リーシュは眉を寄せ、ほんの一拍の沈黙のあと、静かに答える。
「いえ⋯⋯それは結果論です。全て私の不徳の致すところです。それに、今まで何もしていなかった訳ではありませんので⋯⋯」
フワットの効果が切れ、四人は地に足をつけた。
大輔とファナは目を丸くする。
「ファナさん、あのふたり⋯⋯語彙力無くすくらい強いね⋯⋯」
「はい、私もここまで本気の魔法は初めて見ました⋯⋯しかも無詠唱で⋯⋯」
少しの安堵感が漂う中、よろめきながら、ディルハイドは立ち上がった。
全身、切り裂かれ──骨まで見えかねない深手から、血が滴る。
だが、その口元は歪み、腹の底から、笑い声が漏れ出す。
「フフフフフ⋯⋯ハハハハハハッ!」
その声は、まるで自分の痛みさえ愉しむようで──あるいは、これから訪れる“地獄”を確信している者の笑いだった。
そして、裂けた胸元を押さえながら吼える。
「私は──正義を、貫くッ!!」
「勇者も! 雷帝も! エルフもッ!!」
振りかぶるように、全身の力を込めて──
「皆殺しだぁああああああああああッ!!」
その叫びは、もはや戦場に響く雄叫びではなく、──断罪だった。
ディルハイドの身体から紫紺の魔力が立ち上り、咆哮と共に右手を掲げ、空を裂く。
「──《バナファウル》ッ!!」
黒いヴェールのようなものが波打つように森一帯を覆い、ゆっくりと地面に向かって降りてくる。
驚いた鳥の群れが飛び立ち、それに触れた瞬間──
音も無く、消えた。
正確には、“この世から、無くなった”。
その光景を目の当たりにしたシリスは、小さく呟いた。
「これは、まずいな⋯⋯」
大輔に斬られたボルドゥーンは、意識が朦朧とする中立ち上がり、“バナファウル”を見て、思い出した。
「グゥゥゥゥゥ⋯⋯弟ォ!俺を殺したのはお前だったのかァ!」
ディルハイドは嘲笑する。
「ハハハハハハッ!今更気づいたのですか兄上!だがもう遅い!」
「グォォォ⋯⋯先にこいつらをぶっ殺したら次はお前だァ!弟ォ!」
そう言い放つと、ボルドゥーンは魔法で斧を作り出して両手に持ち、大輔めがけて突っ込んでくる。
「こんなときに兄弟喧嘩か?俺が両成敗してやる!」
大輔は左足を少し引き、打ち込める体勢を作る。
「うるせぇぇぇェ!!」
ボルドゥーンが両腕を振り降ろす。
「⋯⋯ここだ!」
大輔はマスターソードで受けたかと思いきや──
「パリイ!!」
「ぐおッ!!」
重い身体がぐらついた、その刹那──
「もう一発くらえぇぇぇ!!面!!」
マスターソードが閃いた。
刃が空を裂き、風を断ち、巨躯を縦に貫いた。
静寂の中で、斬撃音だけが響いた。
ボルドゥーンの巨体はわずかに揺れ、そのまま真っ二つに裂けるように、地へ崩れ落ちた。
「ぐあッ⋯⋯俺が⋯⋯本当に⋯⋯死ぬ、のかァ⋯⋯」
その瞳に宿ったのは、怒りでも誇りでもなかった。ただ、ひとつの“問い”。
そして、音もなく、霧のように消えていった。
「フン、哀れな兄上よ⋯⋯」
“バナファウル”は徐々にノエルナ村に迫って来る。
「さぁ、貴様らはもう逃げられないぞ?死ぬのも時間の問題だ」
「あれは恐らく、広範囲の即死魔法じゃ。リーシュよ、合体魔法を使うぞ。あれならディルハイドを倒し、即死魔法も相殺出来るかもしれん」
シリスの言葉に、リーシュは握る拳にわずかに力を込めながら応じた。
「自信があるかどうかは別として⋯⋯やらないという選択肢は、ありません」
ふたりの視線が重なる。
この瞬間に迷いはなかった。
シリスは眼光を鋭く光らせ、雷の残滓が指先に集まっていく。
リーシュは風を纏い、両腕を交差させて詠唱の構えに入る。
「⋯⋯終わらせるぞ、リーシュ」
「はい!」
──その場の空気が、固まる。
天地が息をひそめる中、ふたりの魔力が、静かに、しかし確実に交わる。
シリスの背後に、雷の陣が浮かび上がる。
稲妻の紋が複雑に交錯し、空そのものに罅が走った。
リーシュの足元には、風の螺旋が生まれる。
地表を削り、空へと昇るその渦は、まるで空気を神に返す道のようだった。
ふたりの声が重なる。
「「スルムル・オ・シュトゥルム・エンダロカンナ!!」」
一拍。
次の瞬間、天が裂けた。
上空から降り注ぐのは、ただの稲妻ではない。
光を纏った破滅の矢が、嵐のごとく降り注ぐ。
風は刃となり、雷は杭となり、森の大地を抉り、空気を焼き、ディルハイドの周囲に結界のような“雷風の檻”を構築していく。
逃げ場などない。
そこは、神罰の降る“監獄”だった。
雷が地を走るたび、地表が裂け、風が叫ぶたび、空が悲鳴を上げる。
光と音と断罪が、──一瞬にして、戦場を消し去ろうとしていた。
そして──
容赦無く、ディルハイドに雷撃と狂風が直撃した。
稲妻が皮膚を焼き、風が骨を砕く。
「⋯⋯ッぐあああああああああああああ!!」
咆哮が上がる。
だがそれは、怒りでも威嚇でもなかった。
痛みすら超えた、魂の悲鳴だった。
紫紺の魔力が、まるで命乞いするかのように乱れ、空に向かって逃れようとするが──雷撃がそれを断ち切り、風が地へと縫い止める。
最早、ディルハイドの身体は原型を留めていなかった。
それでも。
立ち上る土埃の先に、彼の声は、残っていた。
「おおお⋯⋯ああああ⋯⋯まだ⋯⋯終わって⋯⋯いない⋯⋯私が、朽ちようとも⋯⋯“バナファウル”は⋯⋯消えない!!」
風が景色を攫うと、ディルハイドの四肢は右腕だけを残すのみとなっていた。
その腕を下ろすと、黒いヴェールは速度を上げて村に迫って来る。
「しくじったか⋯⋯いかん!皆逃げろ!」
シリスは怒声をあげ、避難を促した。
──こちらも逃げ場などない。
いや、あるはずがなかった。
その“はず”を、真っ向から裏切ったのは、森を割って現れた、一振りの剣だった。
“バナファウル”が十字に斬り裂かれ、風に乗り、森の木々の先端に覆い被さるように消えた。
その先にいたのは──“勇者大輔”。
「何いぃぃぃぃ⋯⋯バナファウルを⋯⋯斬り裂いた⋯⋯!?」
ディルハイドの己の力に対する自信は、シリスの言う通り、この時点で“過信”に変わった。
そして、力を力でねじ伏せられた瞬間でもあった。
「俺言ったよな?両成敗するってよぉ!」
シリスは目を細める。
「⋯⋯勇者よ。何という男だ⋯⋯」
リーシュは叫ぶ。
「勇者殿!全てを断ち切ってくれぇぇぇぇ!!」
ファナは目に涙を溜めながら、
「勇者様ーーーー!!」
大輔はディルハイドに向かって走り出す。
「待て⋯⋯私の⋯⋯正義は⋯⋯」
「これで終わりだあああぁぁ!!」
その瞬間、世界をも貫く一閃──
ディルハイドの身体が、雷よりも速く、風よりも鋭く──逆袈裟に、真っ二つに裂けた。
沈黙。
血が、風に流れる音だけが響いていた。
ディルハイドは、終わりを迎える視界の先に、ヘッレの姿を見た気がした。
「ヘッレ⋯⋯なぜ⋯⋯どうして⋯⋯勇者と⋯⋯」
「私の力は⋯⋯不十分、でしたか⋯⋯?」
普段、呼びかけには応えないはずのヘッレが、明るく声をかけた。
「いやいや、ディルハイドは頑張ったよ。お疲れ様。大丈夫、君はちゃんと、僕の“糧”になるんだから」
ディルハイドの目から溢れるのは、後悔か、失望か。
「私の正義は⋯⋯幻だったようだ⋯⋯」
「誰かに与えられた未来の先には⋯⋯何も、残らないのか⋯⋯」
ヘッレは、諭す。
「無駄な死なんて無いって言ったじゃないか」
「僕がそれを証明してあげるからね──」
ヘッレの声は、遠ざかるように、柔らかく、優しく。
「⋯⋯おやすみ、ディルハイド」
ディルハイドの瞼は、“誰か”の手で静かに閉じられた。