サアラの婚約者は正妻が病死したため、跡取りのいない独り身のため後妻を探していたところ、サアラに一目惚れして結婚を申し込んだらしい。
柱の影から私とサアラは相手の人がお屋敷から出てくるのを待った。
すると夜会に行くのだろう。サアラの婚約者は馬車に乗って走り去る一瞬、顔をみることが出来た。
「ううん。一瞬だけだとわからないね。サアラはどうだった?」
「…」
「サアラ?」
「あの人知ってます…そう、確か私が森で迷子になった時に出会った…泣いていたんです。彼。それで私花冠を作って頭に乗せてあげたの。元気が出ますようにって…」
「それっていつのこと?」
「多分3〜4年前のこと、奥様が亡くなられた頃だと」
するとサアラに一目惚れしたというのはその時の事だろう。きっと見た目だけでなく、泣いている自分を励まそうと花冠を作ってくれた心優しいところも気に入ったのだろうと思った。
「優しそうな人だね」
「はい…迷子になっていた私の手を引いて家まで送り届けてくれたので、その時は名前も名乗らず去って行かれて…」
サアラは何か考えている様子だったので、その考えがまとまるのをまった。
「初恋だったんです」
「初恋?」
「ええ、私は迷子になっていた私を助けて名前も言わずに去って行ったあの方に恋をしていました。覚えています。手の温もりと大きさを」
そこまで聞いて私はフッと微笑んだ。彼女の中でもう答えは出た様子だったから。
「君みたいな優秀そうな弟子が出来なくて残念だよ。でも、幸せにね」
「…はい」
俯いて頬を染めるサアラは恋をする乙女そのものでとても可愛らしかった。