「簡単なものですが…」
私はラークの前に温め直した昨日の残り物のシチューと今朝買ってきたパンを並べた。
するとラークはよだれをたらさん勢いでそれを見入り、言った。
「これ…これ食べてもいいんですか!?」
「ええ…もちろん。おかわりもありますよ」
「ありがとうございます!いただきます!」
ラークはパシンと手を合わせて髪に高速で祈りを捧げるとガツガツとパンとスープに食らいついた。
(なんだなんだ。まるで何日も何も食べてなかったみたいじゃないか)
困惑しながら見ているとソロ〜っとお皿を差し出される。
「おかわりしてもいいですか?」
大の男が遠慮がちに上目遣いで見てくるその姿は可愛くて私はさっと器を受け取ると、一回り大きい器を取り出すとそれになみなみとシチューを注いで渡してあげた。
「これ…すいません。がっつきすぎましたよね。なんせ四日まともに食べていなかったので」
「いいのよ。ねえ、あなた大きな盾を背負ってるけどもしかして冒険者のタンクじゃないの?なんでパン屋に転職を?」
「実は長い間組んでいたパーティーから解雇されまして。俺は昔ながらの標的固定の前衛タンクだったんですけど、今は戦闘参加のタンクが流行っているので流行遅れだそうで…。結構ひどい言われようで解雇されたからトラウマになってしまって。そこであなたのパン屋の求人を見てこれだと思ったんです。自分力には自信があるのできっとお役に立てると思うんです。こう見えて手先も器用ですし。いかがでしょうか?」
(手先で器用で力のある男性。理想的だわ)
「OK!採用よ。裏方だけじゃなくて店頭での接客もお願いするけどそれは大丈夫?」
「ええ。問題ありません。パーティーでは俺が一番喋りが上手いからと交渉役を任されていましたから」
「完璧じゃない!じゃあ早速明日から店を開きましょう。そうね、今日はあなたの部屋を整えて、あなたの身なりも整えて!開店に備えましょう」
わたしはワクワクしていた。新しい仲間が増えて楽しくパンを作れるなんて嬉しくてラークがお腹を空かせていたので追加でオムレツを作ったりしてお腹を満たしてあげた。
「ラークくさいわ。お風呂に入って」
食事の次は風呂だ。ラークは解雇された際役立たずに払うお金はないと無賃で放り出されたそうで、浮浪者のように道端で寝てお風呂も四日お風呂にも入れなかったそうだ。
「いいんですか?そこまでしていただいて…」
「何言ってるの?今から住み込みで働くんだからまずは体を綺麗にして!その後仕事の説明をする…いや。今日はとりあえず服を買いに行ったり、生活必需品を買いに行きましょ」
私はそういうとラークはボロボロと涙をこぼしながらもぐもぐと食事を続けた。
「冒険者チームを追放された俺を拾ってくれただけでなくてそこまでよくしていただいて…嬉しいです…ありがとうございます。俺。一生懸命働きます」
今まで貯めていた辛い思いを吐き出して泣きながらご飯を食べ終えると私が用意したお風呂にゆっくり浸かってもらっている間にパパッと魔法でラークの着ていた服を洗濯し、ついでに盾も磨いておいた。
お風呂から上がったラークは髭と剃って髪型を整えていた。鼻筋の通った堀の深い顔立ち、二重のクッキリとした瞳、ラークは誰が見ても振り返るほどの美形だった。
「ラークあなた今まで女の人にアプローチされたことはなかったの?」
これだけ美形がまちで転がっていたら1人くらい好きものの女が拾って帰りそうなものなのに。
「ああ、俺はタンクで全身武装していたので、いつもこれをかぶっていたんだです。ララさんに会う時は流石に失礼かと思って外していました」
そう言って出したのはフルフェイスの甲冑。
(なるほどそういうことか…確かにフルフェイスの甲冑のが道端に転がっていたらみんな避けて通るよね)
苦笑いして甲冑を受け取ると、それもかなり汗臭かったので魔法で洗浄してラークに渡した。
「うわあ!まるで新品に戻ったみたい!ありがとう!」
ラークは太陽みたいに明るい笑顔で喜んでくれたので、私も釣られて微笑んだ。彼は本当に心ねのいい人そう。いい人材に出会えたのが嬉しいけれど色々やる前にしないといけないことがある。冒険者ギルドへの支払いだ。
「ラーク私これから冒険者ギルドに行って契約完了の支払いをしてくるわね。ここで待ってて」
するとラークは慌てて私の手を掴む。
「1人はダメです。何が起こるかわからないんですから。人攫いにでもあったらどうするんですか?俺も一緒に行きます」
「ふふ。心配性ね。ありがとう」
そうして私とラークは2人連れ立って冒険者ギルドに向かって歩いて行った。