1. コンサート開演
――「旧・鐘技市 市民音楽ホール(現在は廃墟)」――
そこはかつて、市主催の音楽イベントや市民発表会が数多く開かれていたホールだった。
だが、今や使われることはほとんどなく、老朽化の進んだその施設で、なぜか「コンサート」が開かれた。
出演者は**鬼村 星華(おにむら せいか)**という若いピアニスト。
その名を知る者はいなかったが、なぜか会場は「超・満員」。
……いや、正確には異臭で満たされた観客たちによって占拠されていた。
客席から立ち上るのは汗と泥、腐葉土、そして何か発酵したような刺激臭。
誰も喋らない。だが、すべてが異様に、笑っている。
「ご来場……ありがとうございます」
鬼村星華は、深く一礼をすると、鍵盤に手を置いた。
2. 音の刺突
ポロン――♪
軽やかな音が、最初の一音を響かせた。
しかし、演奏されたのは、どう聴いても子どもの練習曲のような簡素な旋律。
ドミソ、ドミソ、ファファミレド……。
会場には失笑さえ漏れなかった。
その代わり、グシャッという音が床から響く。
音に合わせて、客席の床から突如として鉄製の杭がせり上がり、観客の足を貫いた。
誰も叫ばない。
叫ぶ代わりに、笑っている。
星華は冷や汗をかきながらも、手を止めなかった。
彼女の演奏が進むごとに、杭の数は増え、音に反応して規則的に観客を刺し貫いていく。
にもかかわらず、観客は動かない。
いや、動けない。
彼らの足元にはすでに、杭が何本も突き刺さっていた。
星華はわかっていた。
これは呪われたコンサートなのだ。
3. 自動演奏モード
「……もう、私の手では止められない」
彼女は震える指で、ピアノのサイドにある**「自動演奏」**のボタンを押した。
すると、鍵盤がひとりでに動き出し、激しい旋律がホール全体に響きわたった。
ドシュ! グサ! グシャッ! ズギャア!!
まるでピアノの一音一音が刃物のように鋭く、次々と観客の身体を貫いていく。
しかし彼らは、刺されながらもなお、顔を歪めて笑い続けている。
奇妙なリズムに合わせて、杭に貫かれた観客の身体が、トランポリンのように跳ねる。
ピアノの蓋が開き、中からは異臭の煙が立ちのぼる。
会場は臭気と絶叫未満の呻きで満たされ、どこからともなく拍手のような骨の音が響いていた。
4. 終演、そして異臭
ピアノの旋律が最後の音を鳴らし、会場は急に静寂に包まれた。
杭は引っ込み、観客たちは床に崩れ落ちる。
「……っぷ!!」
星華は、鼻をつまみながら口元を抑え、必死で嘔吐をこらえていた。
あまりに強烈な“クサイ”の濁流に、意識が飛びそうになる。
「うげ……ぅぅ……うぅわぁぁぁ」
たまらず、ステージを降りた彼女は、控室のトイレへと駆け込んだ。
吐き気、混乱、そして足元には**異臭を放つ観客たちの“抜け殻”**が残されていた。
後に語られることになる。
「鬼村星華が演奏したホールには、“音に刺されて笑う亡者たち”が棲みついていた」
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セカンドテーマ:クサクサクサナー・コンサート♪ 完
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おまけエピソード
「友紀ちゃんジャンケンがんばる」
「いっけなーい!今日もジャンケン負けちゃった……」
友紀は、今日も挑む。一日一勝を目標に、クラスの男子に勝負を挑み続けるのだ。
だが、結果は今日も全敗。
「次こそは……明日こそは……!」
そんな彼女の秘密は、鏡の前で毎晩ジャンケンの練習をすること。
百回、じゃんけんぽん。百回、じゃんけんぽん。
しかし、その鏡に映る“もうひとりの自分”は、いつも後出しで勝ってくる。
そして99回目、負けた瞬間。
鏡の中の“友紀ちゃん”が微笑んだ。
「じゃあ、明日は……わたしが、勝つね」
おしまい。