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第九話「セカンドテーマ🎵クサクサクサナーコンサート♪」

 1. コンサート開演


 ――「旧・鐘技市 市民音楽ホール(現在は廃墟)」――


 そこはかつて、市主催の音楽イベントや市民発表会が数多く開かれていたホールだった。

 だが、今や使われることはほとんどなく、老朽化の進んだその施設で、なぜか「コンサート」が開かれた。


 出演者は**鬼村 星華(おにむら せいか)**という若いピアニスト。

 その名を知る者はいなかったが、なぜか会場は「超・満員」。


 ……いや、正確には異臭で満たされた観客たちによって占拠されていた。

 客席から立ち上るのは汗と泥、腐葉土、そして何か発酵したような刺激臭。

 誰も喋らない。だが、すべてが異様に、笑っている。


「ご来場……ありがとうございます」


 鬼村星華は、深く一礼をすると、鍵盤に手を置いた。




 2. 音の刺突


 ポロン――♪


 軽やかな音が、最初の一音を響かせた。

 しかし、演奏されたのは、どう聴いても子どもの練習曲のような簡素な旋律。

 ドミソ、ドミソ、ファファミレド……。


 会場には失笑さえ漏れなかった。

 その代わり、グシャッという音が床から響く。


 音に合わせて、客席の床から突如として鉄製の杭がせり上がり、観客の足を貫いた。

 誰も叫ばない。

 叫ぶ代わりに、笑っている。


 星華は冷や汗をかきながらも、手を止めなかった。

 彼女の演奏が進むごとに、杭の数は増え、音に反応して規則的に観客を刺し貫いていく。


 にもかかわらず、観客は動かない。

 いや、動けない。

 彼らの足元にはすでに、杭が何本も突き刺さっていた。


 星華はわかっていた。


 これは呪われたコンサートなのだ。




 3. 自動演奏モード


「……もう、私の手では止められない」


 彼女は震える指で、ピアノのサイドにある**「自動演奏」**のボタンを押した。

 すると、鍵盤がひとりでに動き出し、激しい旋律がホール全体に響きわたった。


 ドシュ! グサ! グシャッ! ズギャア!!


 まるでピアノの一音一音が刃物のように鋭く、次々と観客の身体を貫いていく。

 しかし彼らは、刺されながらもなお、顔を歪めて笑い続けている。

 奇妙なリズムに合わせて、杭に貫かれた観客の身体が、トランポリンのように跳ねる。


 ピアノの蓋が開き、中からは異臭の煙が立ちのぼる。

 会場は臭気と絶叫未満の呻きで満たされ、どこからともなく拍手のような骨の音が響いていた。




 4. 終演、そして異臭


 ピアノの旋律が最後の音を鳴らし、会場は急に静寂に包まれた。

 杭は引っ込み、観客たちは床に崩れ落ちる。


「……っぷ!!」


 星華は、鼻をつまみながら口元を抑え、必死で嘔吐をこらえていた。

 あまりに強烈な“クサイ”の濁流に、意識が飛びそうになる。


「うげ……ぅぅ……うぅわぁぁぁ」


 たまらず、ステージを降りた彼女は、控室のトイレへと駆け込んだ。


 吐き気、混乱、そして足元には**異臭を放つ観客たちの“抜け殻”**が残されていた。


 後に語られることになる。


「鬼村星華が演奏したホールには、“音に刺されて笑う亡者たち”が棲みついていた」




 ⸻


 セカンドテーマ:クサクサクサナー・コンサート♪ 完




 ⸻


 おまけエピソード


「友紀ちゃんジャンケンがんばる」


「いっけなーい!今日もジャンケン負けちゃった……」


 友紀は、今日も挑む。一日一勝を目標に、クラスの男子に勝負を挑み続けるのだ。

 だが、結果は今日も全敗。


「次こそは……明日こそは……!」


 そんな彼女の秘密は、鏡の前で毎晩ジャンケンの練習をすること。

 百回、じゃんけんぽん。百回、じゃんけんぽん。


 しかし、その鏡に映る“もうひとりの自分”は、いつも後出しで勝ってくる。


 そして99回目、負けた瞬間。

 鏡の中の“友紀ちゃん”が微笑んだ。


「じゃあ、明日は……わたしが、勝つね」




 おしまい。




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