暗い山道を一人で歩く。
「早く遠くへ行かないと。あのまま勇者パーティーの近くにいたら、また睡眠魔法を掛けられて殴られそうだ」
思わず溜息が出てしまう。勇者パーティーとして、俺なりに頑張ってきたつもりなのに。
「でもまあ、戦闘中にボーッとしてるように見えたのは仕方ないか」
実はこれまで戦った中に、あの四人だけでは勝てないモンスターもいたのだが……言ったところで信じてはもらえないだろう。それに旅をしているうちに全員が強くなってきて、パーティーが全滅する未来はほとんど無くなった。
「だから追放もやむなし、か。あーあ」
静かな山道に響く俺の声に驚いた鳥が羽ばたいた。
……あ、チキンが食べたい。
能力を使うと異常に腹が減るのは、強力なユニークスキルを使った反動なのだろう。だから能力を使った俺は、お腹がペコペコだ。獲物を狩ろうにも、この状態では能力が使える気がしない。自分の手で物理的に狩るしかないだろう。
「魔法使いがいれば一発であの鳥を撃ち落とせるのに……はあ」
さっき別れたばかりの魔法使いの顔を思い出して、溜息を吐いた。
魔法使いとは上手くやれていると思っていたのに。それは戦士や僧侶、そして勇者も同じだ。
「仲間だと思ってたのに……俺が自分の能力をきちんと伝えてたら、違う未来もあったのかな」
そう。俺のユニークスキルは、運気を上げるラッキーメイカーではない。
俺の本当の能力は『因果を掴む力』だ。
あまりにもチート過ぎて、能力を明かしたら魔王を倒した後に狙われるのは俺だろう、と育ての親に言われたため隠していた。俺の能力で世界の滅亡を選択することも可能だからだ…………たぶん。試していないから本当に出来るかどうかは分からないが。
「でもこの能力で世界が滅亡する因果を掴むことは、不可能じゃないと思うんだよな。その逆に、魔王を倒す因果を掴めば簡単に魔王を倒せると思う」
「ほう。魔王討伐が簡単に出来るとは。ぜひともその話を聞いてみたいものじゃ」
突如聞こえてきた声に驚いて振り返ると、俺の後ろには美少女が立っていた。
サラサラの金髪に宝石のような赤い目で、将来が楽しみな少女……って、どうして美少女がこんなところに?
あたりを見渡したが、保護者らしき人物の姿は無い。そもそも今の今まで誰の気配も無かったはずだ。ということは、この美少女はただの少女ではなく、魔物が俺を油断させるために美少女に変身している可能性が高い。
俺は慌てて美少女から距離を取り、短剣を構えた。しかし魔物相手に俺が肉弾戦で勝てるだろうか。この臨戦態勢のハッタリで逃げてくれればいいが。
「こんな美少女に剣を向けるとは、お主さてはモテないであろう?」
俺が冷や汗を流している一方で、美少女は余裕な様子だ。
あと俺はモテないんじゃなくて、好きな子以外にはモテる気が無いだけだ!
「まあよい。人生はモテることが全てではないからのう。友人と遊ぶことや、美味しい料理を食べることも、人生の楽しみじゃ」
料理という単語を聞いた途端、お腹が大きな音を鳴らした。
緊張感の漂う場面での間の抜けた音に、恥ずかしさが込み上げてきた。しかし美少女は俺の腹の虫がお気に召したらしく、大口を開けて笑っている。
「この場面で腹の虫を鳴かせるとは。緊張感が無いにもほどがあるのう」
「う、うるさいですよ。生理現象なんだから仕方がないでしょう!?」
「うむ、気に入った。少しこの場で待っているがよい」
そう言い残すと、美少女は姿を消した……が、五秒ほどで戻ってきた。片手に鳥を持って。
「お主、チキンは好きか?」
「……好きだとしても、こんな得体の知れない美少女の用意したチキンは食べませんよ」
「美少女とな? その通りじゃが、面と向かって言われると照れるのう」
美少女は、俺の発した「美少女」という単語に喜び、また姿を消したかと思うと、今度はもう片方の手に魚を持って戻ってきた。
「妾を美少女と表現した褒美に魚もやろう。肉と魚が食べられるなんて、贅沢であろう?」
肉と魚という単語に、腹の虫がまた大きな鳴き声を発した。
「こんな怪しい美少女から貰った食料なんて……食べるわけが……」
しかし俺にはもう、誘惑に逆らえるほどの忍耐力が残っていなかった。