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第3話


「…………というわけで、俺は勇者パーティーを追放されたんです」


「なんと。聞くも涙、語るも涙の話じゃのう」


 本日二度目の焚火。焚火の近くには鳥を丸ごと刺した串が突き立っている。焼けるまであと少しだろう。俺は焼き魚を頬張りながら、美少女に先程の出来事を語って聞かせた。

 初対面の美少女に話すような内容ではなかったが、誰かに言わずに自分の胸の中だけに留めておくには、辛すぎる話だったからだ。あとたぶん、この美少女は見た目通りの年齢ではない。だから人間関係のゴタゴタを聞かせても平気だと判断したのだ。


「しかし……勇者、戦士、僧侶、魔法使い、荷物持ち。結構いいパーティーだと思うがのう」


「荷物持ちじゃなくて、ラッキーメイカーです」


「そうじゃったな。そういうことにしておいてやろう。ワッハッハ」


 美少女は見た目と合っていない豪快な笑い方で笑いながら、俺の背中を叩いた。いきなり叩かれてむせると、美少女はすぐに水を渡してくれた。

 そういえば美少女は、狩った肉にも魚にも手を付けず、ただ俺の食事を眺めている。

 ……えっ。もしかして。

 俺の動揺を悟ったのだろう美少女が、すぐに答えをくれた。


「毒は無いから安心するがよい。妾はすでに食事を済ませておるだけじゃ。それにこんな時間に食べたら太ってしまうからのう。美少女が台無しじゃ」


「……こんな時間にどうして美少女が一人で山にいるんですか」


「夜の散歩じゃ」


 答えになっているような、なっていないような。

 本当に少女なわけではないだろうから別にいいのだが、それでも少女……幼女とも言えそうな外見の子が、夜に一人で山を歩いている絵面は違和感を覚えずにはいられない。


「しかし先程の話で気になったのじゃが、お主は魔王を倒したいのではなく、魔王に会いたいだけか? ミーハーなのか?」


「そんな理由で魔王城までは行きません……けど、俺の個人的な事情と深く関わる話です。申し訳ないですが、初対面のあなたには話せません」


「寂しいのう悲しいのう。お主と妾の仲ではないか」


「ほんの一時間前に会った仲でしょう」


「絆の深さに時間は関係ないのじゃ」


「だとしても、一時間でそこまでの絆は結べませんよ」


 美少女はなおも、寂しいのう悲しいのう、と言い続けている。目には涙まで溜め始めた。


「妾はこんなにもお主と仲良くなりたいと思っておるのに。壁を作られると泣いてしまいそうじゃ。少しだけでいいから教えてはくれんかのう?」


「……泣かれても話せませんよ」


「美少女が頼んでおるんじゃぞ? 本当に少しだけでいいんじゃよ。先っちょだけでいいから」


「本物の少女は、そんな下品なことは言いません!」


 俺が美少女のお願いを突っぱねると、美少女の目に溜まっていた涙はスッと引っ込んだ。


「ちっ、ダメか」


 実は美少女の涙に心が揺れていたのだが、嘘泣きだったようだ。

 美少女はケロリとした顔で、その辺に落ちている小枝を焚火に投げ入れ始めた。小枝が投げ入れられるたびに炎がゆらりと揺れる。


「肉には当てないでくださいよ」


「妾がそんなヘマをするわけがなかろう」


 美少女は炎の中に小枝を数本投げ入れてから、試すような表情で俺のことを見た。口の端を上げて不敵な笑みを浮かべている。


「それで、そのラッキーメイカーとやらは、具体的には何が出来る能力なんじゃ?」


「パーティー全体の運気を上げられます」


「それだけの能力で魔王を倒せるなどと言っておったのか? 本当に?」


 美少女はなおも俺を試すような視線を向けている。挑発されているのだろうか。


「倒せると思いますよ。別に倒す気はないですが」


「勝とうと思えば勝てるけど、勝つ気がないから勝たなかっただけ。みたいなことを言うのう」


「…………」


「作ろうと思えば作れるけど、作る気がないから彼女を作らなかっただけ。みたいなことを言うのう」


「…………」


 美少女は絶妙に嫌な例えを出してきた。俺がイキっているだけだと思っているようだ。しかしよく考えてみると、俺の発言は何も知らない相手が聞くとイキっているようにしか聞こえない。だからと言って軽率に自分の能力の話は出来ないので、無言で耐えるしかない。


「人気者になろうと思えばなれるけど、人気者になる気がないから……」


「もう勘弁してください!」


 早々に耐えられなくなった俺は、美少女の言葉を遮った。美少女は遮られるまで嫌な例えを出し続けるつもりに見えたからだ。


「では、お主が魔王を倒せると言った理由を教えてくれるんじゃな?」


「それはまだ言えませんが、魔王に会いたい理由なら言えます」


「ほう。言ってみるがよい」


 俺は深呼吸をしてから告げた。


「俺のユニークスキルを、奪ってほしいんです」



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