「ショーンよ。お主、毛布もかぶらずに寝たのか?」
目を開けると、空が明るくなっていた。何事もなく夜が明けたようだ。
「毛布なんて持ってないので。魔法で出現させることも出来ませんし」
「それならそうと、さっさと言わんか。妾には仲間にひもじい思いをさせる趣味は無いのじゃ」
さっさと言えと言われても、昨晩魔王リディアは驚くべきスピードで寝てしまった。毛布をかぶって三秒でぐっすりだった気がする。
「妾は『一年という契約が切れてもこのまま魔王リディア様と旅がしたい』とショーンに言わせたいのじゃ。ゆえに旅は快適でなければならぬ。頼みごとがあるならすぐに言うのじゃぞ」
欲しいと言えば、俺も布団と毛布で寝ることが出来るのか? すごいVIP待遇だ。勇者パーティーでは、野宿で毛布をかぶることなんてなかった。というか、どんなパーティーであろうと、野宿で布団と毛布にありつけはしないだろう。
「妾との旅はすごいであろう? 早速、契約が終わっても妾と旅を続けたくなったのではないか?」
魔王リディアが得意げな顔をしている。外見が美少女なだけに、こういった表情はとても可愛らしい。
「さあショーンよ、朝食じゃ。たらふく食べるがよい」
そして焚火の前にはまたしても魚の串焼きが並んでいた。
「あなた……リディアさんも魚を食べるんですか?」
「なんじゃ。独り占めしたかったのか? 欲張りな男じゃのう」
「そうではなく。魔王だからもっとゲテモノっぽいものを食べるんだと思ってました」
魔王リディアは魚の刺さった串を一本手に取ると、串ごとバリバリと食べ始めた。
「妾は雑食じゃ。毒に耐性もあるから、食べようと思えば何でも食べられる」
「なる、ほど……?」
通常雑食というのは、肉でも魚でも野菜でも食べられるという意味で使う。しかし今、魔王リディアは魚と一緒に串もバリバリ食べていた……魔王リディアの言う雑食は、木や石も食べられるということなのだろうか。
「うーむ。さすがに石はどうじゃろうな。不味そうじゃから食べたことはないが、今度期待に応えてやろうか?」
「期待はしてません。食べなくていいです」
そんなものを見せられても反応に困るだけだ。
「どうしたのじゃ、ショーンよ。早く食べんと勇者たちがダンジョンを閉じてしまうぞ?」
魔王リディアの言葉にハッとした俺は、急いで焼き魚を食べ始めた。
もちろん串は食べられそうもなかったが。
食事を終えた俺たちは、山道を歩いてダンジョンに到着した。
移動を始める前に、魔王ならダンジョンの前までひとっ飛びで行けるのではないかと尋ねると「景色を見ながら歩くのが旅の醍醐味じゃ」と一蹴されたからだ。
そして俺は、情緒の無い男という烙印を押されてしまった。だからモテないのだと。余計なお世話だ。
「ほうほう。勇者パーティーはすでにダンジョンに潜ったようじゃのう」
「そんなことが分かるんですか?」
「中にいるのが誰かまでは分からんが、四人の人間が中におる。このタイミングでこのダンジョンに挑んでおる冒険者など、いくらもおるまい?」
四人。きっと勇者パーティーだ。勇者、戦士、僧侶、魔法使い。
自然と彼らの顔が思い浮かんでしまい、溜息が出た。
「そう暗い顔をするでない。勇者パーティーを追放されたその日から、プリティな妾と一緒に旅をすることになったと、勇者たちに自慢してもいいのじゃぞ?」
「魔王と一緒にいることがバレたら厄介な事態になりそうなので、絶対に言わないでくださいね」
「つまらんのう」
魔王リディアは拗ねているが、魔王と一緒に旅をしていることがバレたら、きっと俺はお尋ね者になる。呑気に旅をしている場合ではなくなるはずだ。
「確かにのう。旅はのんびりするからいいんじゃ。逃げるように旅をするのでは、楽しさは半減どころではないからのう」
俺の考えを読んだ魔王リディアはそう言うと、ダンジョンを指差した。
「立ち話もよいが、そろそろダンジョンに潜るぞ。勇者たちにダンジョンを閉じられる前に、呪いのアイテムを見つけるんじゃろう?」
「あっ、はい!」
俺はさっさとダンジョンに潜る魔王リディアに続いて、ダンジョンへと足を踏み入れた。