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第10話


 ダンジョンの中に入ると、道のりがあまりにも快適なことに驚いた。先に入った勇者たちが倒したおかげか、モンスターが一匹も現れない。


「モンスターがいない代わりに、宝箱も空ですけどね」


「とはいえ、わざわざ呪いのアイテムは持って行かんじゃろう」


 それはそうだろう。宝箱を開けて中身が呪いのアイテムだと分かったら、そのまま置いていくはずだ。持って帰るメリットなど何も無いのだから。


「初期の頃は、呪いが掛かっていても強い武器なら我慢して使おう、と持って帰ってましたが、今の勇者パーティーは良い装備を持ってますからね。呪いのアイテムはいらないはずです」


 喋りながらも、俺は開けられている宝箱の中を注意深く確かめていく。しかしどの宝箱も中身は空で、呪いのアイテムが置き去りになってはいなかった。


「呪いのアイテムがダンジョン内のどこにあるのかは分からないんですか?」


「妾に分かるのは、ダンジョンの中にいる冒険者の人数と、設置されているアイテムの名前だけじゃ」


「アイテムの名前……このダンジョンには、名前に『呪いの』と付いているアイテムがあるんですね?」


「その通りじゃ。実物を見ないことには、効果までは分からんがのう」


 そのとき一匹のモンスターが姿を現した。勇者たちが見逃したモンスターだろう。

 モンスターは俺たちを見ると……頭を地面に擦りつけて平伏しつつ道を譲ってきた。


「あの……これは何ですか」


「ダンジョンに住むモンスターじゃな」


「そうではなくて。頭を地面に擦りつけながら平伏してるんですけど……」


「妾の圧倒的な力量を察し、道を譲ることで、命だけは助けてもらおうとしておるのじゃろう」


 もしかしてこれまでモンスターが一匹も出なかった理由は、勇者たちが倒したからではなく、魔王リディアと一緒に歩いていたから?


「その言い方では、まるで妾が避けられているようではないか」


「避けられてるんだと思いますけど……」


「妾には人望がある。モンスターたちに避けられるはずがないのじゃ」


 俺たちがその場を去ると、平伏していたモンスターはものすごい勢いで逃げて行った。




「ときにショーンよ、お主は魔物とモンスターの違いが分かっておるか?」


「似た存在ですが、魔法を使えるのが魔物で、使えないのがモンスター……ですよね?」


「ほう。人間たちの間ではそういう認識なのか」


「違うんですか?」


 魔王リディアは一つ咳払いをしてから、講義のテンションで両者の違いを語り始めた。


「魔物とモンスターの一番の違いは成り立ちじゃな。モンスターは想像上の化け物、可愛く言うとお化けに近いものを起源としておる」


 お化けが可愛いのかはさておき。想像上の化け物が起源だというのは納得だ。そういった姿形のモンスターを旅の中で何度も見ている。


「一方で魔物は魔力を持っている生き物。動物に近い存在と言える」


 そこまで言った魔王リディアは、人差し指を立てて左右に振った。


「つまり、魔物とモンスターは全く似ておらん。どちらかと言うと、魔物はモンスターよりも人間に近い存在なのじゃ」


 魔物とモンスターよりも、魔物と人間の方が近い存在。

 今の話で分かったような気もするが、しかしどうにも飲み込むことが出来ない。だってあまりにも人間と魔物は姿が違いすぎる。


「妾はかなり人間に近い姿じゃと思うぞ」


「リディアさんはそうですが、人間とかけ離れた外見の魔物の方が多いと思います」


「ふむ。姿うんぬん言うのであれば、人間と犬と鳥は姿が違うが、同じ動物の括りじゃ。対して幽霊は姿が人間に似ていようと、同じ括りにはせぬであろう?」


「確かに、そうですが……」


 そうなると、魔物が人間を殺して世界征服をしようとしていることが、ただの悪ではないように思えてしまう。だって、それは。

 魔物が悪なのではなく、ただの生存競争だ。

 この世界で魔物が栄えるために魔物は人間と戦い、人間はこの世界で栄え続けるために魔物と戦っている。

 魔王討伐というのは、悪を懲らしめる戦いではなく「敵の親玉を殺して敵側の戦意を喪失させ生存競争に勝て」という意味を持っているのではないだろうか。


「そうじゃ。青少年よ、悩み、疑い、考えろ。それだけが、誰にでも許された権利なのじゃから」




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