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第11話


 俺はダンジョンを歩きながら、魔王リディアの発言について考え続けていた。

 魔物は人間と同じ括りであり、生存競争をする相手。そもそも魔物が悪さをしているというのは、人間側から見た意見だ。魔物側から見たら、悪さをしているのは人間の方かもしれない。だから……。


「ワッハッハ。そんな甘い考えでは人間は生存競争に負けてしまうぞ。国王のように、魔物を悪に仕立て上げ殲滅させるようなズル賢さが無いとのう。彼は実に上手い指揮官じゃ」


 魔物たちが不当な扱いを受けているというのに、魔王リディアは楽しそうにしている。


「人間の俺が言うことではないですが……魔物たちは、魔王のあなたに人間を滅ぼしてほしいと願っているのではないですか?」


 俺の質問に、魔王リディアは困ったように眉を下げた。


「実際、そのように願っている魔物は多い。妾はそのものたちの思想を止めはしなかった。そして、妾は協力せぬが各々の考えるまま行動するとよい、と進言した。妾は人間を殲滅するよりも、のんびり旅をする方が好きじゃからのう。関わりたくなかったんじゃ」


「……魔物たちがそんな状態の中、本当にリディアさんは自分勝手が許されたんですか?」


「妾に反対意見を言えるものなど存在せぬ。しかしいい顔はされんかった。だから今は別のものが魔王城を管理しておる」


「魔王じゃなくても、魔王城を管理出来るものなんですか?」


 俺の素朴な疑問に、魔王リディアは困ったような顔のまま微笑んだ。


「妾が魔王と呼ばれるのは、魔物の中で一番強いからじゃ。統率力で言うなら、妾よりも今現在魔王城を管理しているものの方が、よっぽど魔王に向いておるかもしれんのう」


「魔王の座をその人に譲らないんですか?」


「嫌じゃ! 妾が魔物の中で一番強いのじゃ。魔王の座を譲ったら、妾が一番ではないみたいになるのじゃ」


「そんなしょうもない理由で魔王をやってるんですか?」


「しょうもなくないのじゃ! 一番かそうでないかは、とっても重要なことなのじゃ! 妾が一番なのじゃ!」


 話を聞く限り、目の前の美少女は世界征服を目論む魔王像とはかけ離れている。どこからどう見ても、世界征服なんて望んでいない。


「その通り、妾は世界征服などどうでもよい。しかし、そうではない魔物が多いこともまた事実。そして妾は、魔物たちの行動をそれぞれの自由意思に任せておる。世界征服をしようとする魔物がいてもおかしくはないのじゃ」


 難しい話だ。魔物のトップである魔王は世界征服を狙ってはいないが、魔物の中には狙っているものもいる。だから人間側の国王が言っていることのすべてが嘘なわけでもないのだろう。




「……おっと。こんな話をしている間に宝箱を素通りするところじゃった」


 再び考えに耽っていた俺の手を魔王リディアが引いた。もう片方の手で宝箱を指差している。


「気付きませんでした。ありがとうございます」


「妾はショーンの旅の仲間じゃからな。お主がダメダメでも妾がしっかりしておるから安心するとよい」


「俺が駄目なことは認めますが、リディアさんがしっかりしているというのは……どうなんでしょう」


 今のところ、魔王リディアからしっかり者属性は感じない。


「しっかり者と言えば妾だと、百体の魔物に聞けば百体全員がそう答えるのじゃ」


「それはリディアさんに反対意見を言えないだけなのでは?」


「そこに気付くでない!」


 会話をしながら魔王リディアに指差された宝箱を覗き込むと、アイテムの名前とその効果が表示された。これは……。


「呪いのエメラルド指輪。身に付けた者は状態異常にはならないが、敵に発見されやすくなる」


「どうやら外れみたいじゃのう。この指輪は、身に付けた者のスキルを奪ってはくれんようじゃ」


「そうみたいですね。ちなみにこのダンジョン内にある呪いのアイテムの数はいくつですか?」


「一つじゃ。つまり、これだけと言うことじゃ」


 あまりにも呆気なく、呪いのアイテム探しは終わってしまった。もうこのダンジョンに用はない。


「まあまあ、そう言わずに」


「あまりにも頻繁にやり取りをするからいちいちツッコみませんでしたが、俺の心の声と会話をするのはやめてもらえませんかね!?」


 俺の当然の訴えは、魔王リディアの心には全く響いていないようだった。魔王リディアは都合よく俺の話が聞こえなかったかのように、口笛を吹き始めた。


「何か言ったかのう。口笛に夢中で聞いておらんかった」


「だから、俺の心の声と会話を」


「ピピピーピューピューイ」


「聞く気が無いなら何度も言わせないでくださいよ!?」


 きっと魔王リディアは、これからも俺の心の声と会話をするつもりだ。これはもう俺が諦めた方が良いのかもしれない。




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