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第13話


【side 勇者】


 おかしいおかしいおかしい。こんなことは絶対にありえない!!

 僕は裕福な家に生まれ、両親に大事に育てられ、そして魔王を倒す勇者に選ばれたエリートで、誰よりも強くて、誰よりも輝いていて、誰よりも賞賛されるべき存在で……。

 そんな僕が、そんな僕の率いる勇者パーティーが、どうして全滅の危機に直面している!?


「悪い、勇者……これ以上は、持ち堪えられそうもない」


「もっと頑張れよ!? 俺が壁になるから勇者パーティーは安全だって豪語してたのは誰だよ!?」


 前衛でボスモンスターの攻撃を受けていた戦士が膝をついた。そのせいで戦士の受け止めきれなかった攻撃がどんどん飛んでくる。


「すみません、勇者さん……もうわたくしでは回復が出来ません」


「はあ!? じゃあどうやって回復しろって言うんだよ。もう薬草はねえんだぞ!?」


 メンバーの回復をしていた僧侶が泣き言を漏らした。すでに薬草は使い切っているため、これ以上の回復は出来ない。


「ごめんね、勇者……私ももう駄目みたい。近くの村にワープで逃げよう」


「何を言ってるんだ!? 勇者パーティーがダンジョンから逃げ帰ってきたなんて、笑いものになるに決まってるだろ!?」


 魔法使いが息も絶え絶えな様子で地面に倒れた。戦士が膝をついたことで、魔法使いはボスモンスターの攻撃を直に受けたらしい。


「勇者パーティーがダンジョンから逃げるなんて、そんなこと……」


 可能か不可能かで言うなら、ダンジョンから村へ逃げる案を採用することは可能だ。僕は最後に立ち寄った村へワープするアイテムを持っているからだ。

 しかし、ダンジョンを閉じずにボロボロの状態で村へワープするのは、ダンジョンクリアに失敗したことを村人たちに知らせるも同じ。完璧な僕に、完璧な僕の勇者パーティーに、そんなことは許されない!


「大体なんでこんなことになってるんだよ!? この程度のダンジョンは前にもクリアしたはずだろ!?」


 僕の質問に答える者はいない。今や全員が地面に倒れている。


「まさか……荷物持ちがいないせいで運気が上がらなかったからか?」


 そんな馬鹿な。運気程度で勇者パーティーがここまでボロボロになるわけがない!

 戦士が早々に膝をついたせいだ。

 僧侶が魔力使用の配分を間違えたせいだ。

 魔法使いがボスモンスターの攻撃を避けなかったせいだ。

 そもそも、きっとこれは何かの間違いだ。このダンジョンには、報告されていたよりもずっと強いボスモンスターが潜んでいたんだ。そうだ、そうに違いない。


「おかしな強さのモンスターが潜んでいたなら仕方ない。そうだ、僕たちは運が悪かったんだ。あはっ、あはははははは!」


 僕が大声で笑っていると、突如として二つの人影が現れた。

 周囲に漂うキノコの胞子が目に入ったせいで視界が霞み、はっきりとは姿が見えない。

 人影はだんだん僕の方へ近付いてくる。


「この狂ったように笑っている男が、今代の勇者かのう?」


「そうです。さすがにこんな姿は初めて見ましたが」


「ということは、地面に倒れておるのが勇者パーティーの仲間たちということか」


「はい。勇者を守るような戦い方をしたせいで、勇者だけが残ってるんでしょうね」


「勇者は人間を守るものではないのか? 勇者が守られておるとは不思議じゃ」


「勇者パーティーの戦い方はいつもこんな感じでしたよ」


 二つの人影は言いたい放題言っている。

 失礼な。僕は守られるためではなく、仲間たちの動きを指揮するために後方にいただけだ。どんな戦いにだって指揮官は必要なはずだ。


「指揮をするにしても、自身も戦いながら指揮をとればいいのにのう」


「あっ、リディアさん。もしかして今、勇者の心を読みました?」


「読んだぞ。ずっと言いわけをしておる。痛々しい奴じゃ」


「あちゃー。言いわけなんてしてないで、早く村へワープすればいいのに。きっと勇者のプライドが許さないんでしょうね」


 近付くにつれて、霞んだ目で見ても二人の姿がはっきりとしてきた。

 二人組は男と女のようだ。そして、男は。


「…………荷物持ち。どうしてここに」


「俺は荷物持ちじゃなくて、運気を上げるラッキーメイカーです」




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