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第14話


【side ショーン】


 俺は倒れている勇者パーティーの面々に近付くと、全員の脈を確認した。どうやら気絶しているだけで、全員生きてはいるらしい。


「早く近くの村までワープして、みんなの回復をしてあげてください。ワープ用のアイテムは持ってましたよね?」


「うるさい! 荷物持ちが僕に指図するな!」


「そんなことを言ってる場合では……」


「うるさいうるさいうるさい! お前は役立たずで底辺の荷物持ちで、僕は誰からも賞賛されるエリートの勇者なんだ。お前は僕に意見できる立場じゃねえんだよ!」


 俺が勇者と言い争っていると、魔王リディアが耳打ちをしてきた。


「どうやらこの勇者、ダンジョンを閉じずに村へ逃げ帰り笑いものにされることが嫌みたいだぞ。器の小さい男じゃ」


 勇者らしい理由だ。いや、この場合は「勇者らしい」ではなく「この男らしい」が適切な表現か。

 正直、勇者パーティーがボロボロになっているところを見るのはいい気味だが、助かる命が消えていくのを無視することは出来ない。俺は勇者のようなクズにはなりたくないから。


「ダンジョンを閉じたら、近くの村までワープしてくれるんですね?」


「荷物持ちにダンジョンが閉じられるわけねえだろ。それとも一緒にいる女がボスモンスターと戦ってくれるのか!?」


 勇者は魔王リディアを指差した。しかし魔王リディアは瞬きすらしない。

 ボスモンスターに関しては、魔王リディアは手出しをしない。俺たちは、道中にそう決めた。

 そして今、魔王リディアはボスモンスターに対して自分は戦闘の意志が無いという合図を送ってくれている。そのおかげでボスモンスターは逃げずにこの場にとどまっているのだ。


「ボスモンスターとは、俺が戦います」


「勇者パーティーが負けたのに、荷物持ちに何が出来るんだよ!?」


「どうやって倒すかはまだ分かりませんが、可能性はゼロではないと思います」


 そう言いながら、俺は攻撃を受けないようにボスモンスターから十分な距離をとった。

 そして――――ラッキーメイカーを使った。




 精神を、因果の世界へダイブさせる。全身の力を抜き、ここではないどこかへと意識を飛ばす。ふわりふわりと現実世界の輪郭が歪んでいく。

 意識の向かった先、因果の世界は、自分の足すらも見えないほどに真っ暗だ。しかし目の前には、幾千万の因果の糸が伸びている。幾千万の因果の糸が絡み合い、繋がり合い、未来へと伸びている。

 手近な因果の糸を掴むと、その因果の先の未来の映像が脳内に流れ込んでくる。どの因果の糸を掴んでも、因果の先に視える未来は、俺がボスモンスターに倒されるものばかりだ。


「これも違う、これも、これも……」


 糸を手繰るたびに残念な未来ばかりが視えてくる。

 俺が心臓に致命傷を受ける未来、首に致命傷を受ける未来、頭に致命傷を受ける未来、じわじわと苦しみながら倒れる未来、戦い続けて力尽きる未来。


「……あった、これだ!」


 俺はその中からやっと見つけた欲しい未来へと続く因果の糸を掴むと、因果の内容を確認した。

 確認の終わった俺は、また全身から力を抜く。そして現実世界を強くイメージする。今度は因果の世界の輪郭がふわりふわりと歪んでいく。




「ボスモンスターを倒す方法が分かりました!」


「ようやく戻ってきおったか」


 因果の世界から戻ってきた俺は……地面に生えていたキノコを次から次へと採取した。

 そしてキノコを抱えたままボスモンスターに近付くと、咆哮するボスモンスターの口の中に、採ったキノコをまとめて投げ込んだ。


「考えてみるとおかしいんですよ。こんなにキノコがあるのに、ボスモンスターに踏まれた形跡がありません。踏まれているキノコにはすべて人間の踏んだあとがついてます。つまりこのボスモンスターは、キノコを踏むことさえ避けるほどに、このキノコを苦手としてるんです」


 俺が説明をしている間に、ボスモンスターは悶え苦しんで暴れ回り、動かなくなった。

 俺の掴んだ因果の糸で視た未来はここまでだったが、ボスモンスターが動かなくなってもダンジョンが閉じないということは、ボスモンスターにはまだ息があるのだろう。トドメを差す必要がある。


「ボスモンスターと言えど、動かない相手にダメージを与えることくらいは俺でも出来ます」


 俺は倒れている戦士の手から大剣を拾い上げた。俺の持っている短剣ではボスモンスターにトドメを差し切れないと思ったからだ。

 大剣は予想していたよりもずっしりと重みがある。


「この大剣、こんなに重かったんですね。俺ではとても振り回したりなんか出来ませんね」


 俺は引きずるように大剣を持つと、ボスモンスターの身体をよじ登った。そしてボスモンスターの首元まで行くと、大剣を勢いよく振り下ろした。痛みで目を覚ましたボスモンスターは、一度大きく身体を動かした後、息を引き取った。


「…………ふう。これでダンジョンは閉じるでしょう。おっと、ダンジョンが閉じる前に素材を取った方が良いですね」


 俺はボスモンスターから、討伐報酬の素材を手際よく回収した。討伐報酬の回収は勇者パーティーでの俺の仕事だったため、手際の良さなら誰にも負けない自信がある。


「どう、して……お前のような荷物持ちが……」


 勇者の発する蚊の鳴くような声に気付いた俺は、ブイサインをしてにっこりと笑ってみせた。これが勇者には一番効くと思ったからだ。


「楽勝でした!」


 俺の言葉を聞いた勇者は、何も言うことが出来ないようだった。ただ口をパクパクとさせている。

 討伐報酬を回収し終わった俺は、魔王リディアの元へと向かった。


「どうでしたか、俺の戦いは」


「能力を使っている間、無防備すぎる。一人での旅は無理じゃな」


「やっぱりそうでしたか。そこが課題ですよね」


「何を言っておる。今のは、旅の仲間である妾にサポートを頼む場面であろう?」


 無防備な状態の俺を守るサポート…………すごい、パーティーみたいだ!

 思えば勇者パーティーでは、戦闘から離れた岩の陰などに隠れてから、スキルを使っていた。スキル使用中に無防備になったとしても、誰も俺のことを守ってくれないと思ったからだ。


「なんだか俺とリディアさん、仲間みたいですね」


「みたいではなく仲間じゃよ」


「……なんか青春っぽくて、むず痒いです」


 そのとき、ダンジョンに光の粒が舞った。そろそろダンジョンが閉じる時間のようだ。光の粒が増殖していき、ぱあっと強い光を放つ。

 次の瞬間、ダンジョンは綺麗さっぱり無くなってしまった。




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