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第16話


 若い三人の女性が、きゃいきゃいとお喋りに花を咲かせている。


「山にあるあのダンジョン、閉じたらしいわよ」


「さすがは勇者様ね」


「ただ無傷とはいかなかったみたいよ」


「私も聞いたわ。勇者様の仲間たちは瀕死状態だったんだって」


「それでもダンジョンをクリアしちゃうんだから、勇者様はさすがよね」


「そうよね。仲間たちが全員やられた状態でダンジョンをクリアしたのよね。すごいわ」


 討伐報酬を売却したことで財布が分厚くなった俺たちは、村にあるレストランで食事をとっていた。野宿で食べる焼き魚も美味しいが、手間暇かけて作られたパエリアは格別だ。テラス席のため、頬をくすぐる風も心地いい。


「どうして勇者がダンジョンを閉じたことになっておるんじゃ」


「勇者パーティーが潜ったダンジョンが閉じたら、誰だって勇者が閉じたと思いますよ」


「そうは言っても、ショーンが討伐報酬を売りに行ったではないか」


「勇者パーティーにいた頃も俺が討伐報酬を売りに行ってましたからね。雑用係的な感じで」


 ダンジョンクリアが勇者の功績になったことは、魔王リディアにとっては不愉快なことらしい。イライラした様子で貧乏ゆすりをしている。


「そんなにイラつかなくても……リディアさんと勇者は、会話も交わしてないじゃありませんか。それなのに勇者が嫌いなんですか?」


「妾は勇者の心の中を読んだ際に、落胆した」


「ああ。そういえば読んでましたね、勇者の心」


 性格の悪い勇者が、俺たちの功績を横取りしたことが気に食わないのだろうか。魔王リディアは、功績と賞賛とかそういったことにあまり興味が無いものだと思っていたが……いや、自分が一番強いことに誇りを持っているから、案外そういったものに執着しているのかもしれない。


「フン。妾は人間からの賞賛など要らぬ。そうではなく、妾は単純に勇者のことが好きではないのじゃ。好きではない勇者が、やってもいないことで褒められるのが嫌なだけじゃ! ……そのせいで、本当にダンジョンを閉じたショーンは、誰にも褒められんではないか」


「いいんですよ。褒められたくてやったわけじゃないですから。俺の目的は十分に果たせました。空振りでしたが呪いのアイテムをチェック出来た上に、勇者を見返せましたからね。おまけに討伐報酬で美味しいご飯まで食べられましたし」


 俺たちが会話をしている最中も、三人の女性の会話は止まらない。彼女たちに俺たちの会話を聞いている様子はない。自分たちの話に夢中なせいで、周囲の会話は耳に入らないらしい。


「でもね、勇者様が一人で仲間たちを診療所に運び込んだわけじゃないんだって」


「じゃあ誰が連れて行ったの? 村人の誰か?」


「ううん、村人じゃなかったんだって。名乗らずに帰っちゃったらしいよ」


「それ、荷物持ちの人じゃない? ダンジョンへ行く前に勇者様がこの村に立ち寄ったときにいた人」


「そんな人いたかしら」


「別人だと思うわ。勇者様を手伝っていたのは、男女の二人組だったらしいから」


 彼女たちの会話を聞いた魔王リディアは、グラスに入った氷をからからと回している。


「今ここで、その人物は俺でーす、と話に割り込みに行ったら、ショーンも有名になれるんじゃないかのう」


「嫌ですよ。そんな恥ずかしいことをするのは」


「……まあよい。人気者になったらなったで、旅がしづらくなるかもしれんからのう」


 そうは言うものの、魔王リディアの貧乏ゆすりは止まらない。むしろどんどん酷くなっている。


「どうしたんですか。こんなにイライラするなんて、リディアさんらしくないですよ」


 イライラが頂点に達したのか、ついに魔王リディアは立ち上がり大声で叫んだ。


「あの勇者、妾の美貌に全く触れなかったのじゃがーーー!?」


 ああ、イライラするポイントはそこなんですか……。


「心の中でも美女と思ってなかったのじゃがーーー!?」


 勇者の心を読んで落胆したって、魔王リディアのことを美女だと考えていなかったからなんですか……。


「悔しい! 妾はこんなにも美女なのに! 数歩歩けば男が群がるはずなのにーーー!?」


 そうは言うが、この性格では一部の物好き以外はすぐに逃げていくだろう。


「別にいいじゃないですか。ほら、人気者になったらなったで、旅がしづらくなるでしょう?」


 俺が先程の魔王リディアの言葉を引用すると、彼女は拗ねた様子で頬を膨らませた。美少女の状態で拗ねるととても可愛らしいが、今の大人の状態で拗ねるのも、美しい顔立ちと拗ねた表情とのギャップで魅力的に見える。


「……まあよい。今のショーンの感想で許してやろう」


「あっ、ちょっ、また俺の心の中を読んだんですか!?」


 魔王リディアは悪戯っぽく笑うと、地図を取り出して次の目的地について話し始めた。

 俺たちの奇妙な旅は、まだまだ続きそうだ。



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